「社会的共通資本を考える」後記 シリーズ1第3回
第3回「『自動車の社会的費用』を読む」後記
社会的共通資本を考える シリーズについて
京都大学社会的共通資本と未来寄附研究部門では、宇沢弘文が提唱した社会的共通資本を研究し、社会的共通資本の実装可能性を検討しています。2023年2月~「社会的共通資本を考える シリーズ」と題して、社会的共通資本をより深く理解し、実践につなげるために、宇沢弘文の著書や社会的共通資本に関連する本を様々な角度から読み込んでいくイベントを開始しました。
シリーズ第一弾は『自動車の社会的費用』岩波新書が題材です。本書は、宇沢弘文の初の日本語の単著です。人の命といった大切なものをお金に換算しない経済学のはじまりといっても過言ではないこの社会的共通資本の考えの基盤となったこの本を読みました。
第3回「『自動車の社会的費用』を読む」後記内容
事前に参加者には『自動車の社会的費用』を読了したうえで参加いただき、当日は最初に20分程度、講師から書籍内容の要点や、対話のテーマになりそうな内容を提示し、参加者の読解の目線を合わせました。
その後、4~5人で書籍に関する疑問や感想をシェアし合い、グループで対話をしていただきました(リアル3グループ、オンライン1グループ)。各グループ内の関心事はさまざまで、次のような意見が交わされていました。
A(リアル):
現代人が道路や自動車の利便性を手放すことができるかどうか、可能性が議論されました。できるとしても、社会的合意をどう得るのかという難しさが話されました。
C(リアル):
愛媛県松山市が実際に車道の本数を減らした分、歩道を拡張し、人の行きかう活気あるまちづくりを時間をかけて成功させた事例などが共有され、まちづくりにおける道路戦略について意見交換しました。
D(リアル):
宇沢先生は自動車や道路の負の部分に注目されているが、日本の経済発展や現代人からみた自動車の実益についても考えてみました。
E(オンライン):
各地方からの参加者が多く、それぞれの地方でのまちづくりの成功点、課題点の事例共有がされました。
グループでの対話のあとは、各グループの発表を行い、全体での意見交換を行いました。
特に「名犬サーブ」(主人を守るために車に跳ねられ前足を失った盲導犬)の話について、日本人は主人への忠誠心を讃美するが、海外からは犬が車に跳ねられるような道路設計に批判的であった事例が共有され、製品やサービスを取り入れるか否かの議論、取り入れるならばリスクの洗い出しや、そのリスクをどう回避するか対策を当初に計画する重要性が語られました。
また、愛媛県松山市の駅前再開発計画によって、車道の本数を減らし、歩道を拡張したことより、街の賑わいが戻ってきたという事例から、今後の都市開発の在り方も語られました。
各グループ全く異なる切り口での対話だったため、他グループの対話の共有や、それを受けての意見交換によって、さらに書籍に対する理解や、各人の思考の幅や深さを拡張でき、実りのある会となりました。