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江馬務先生の『日本妖怪変化史』を未来に開かれた妖怪研究書として読む

今宵は、妖怪学の古典、江馬務先生の『日本妖怪変化史』について、語らせてください。

まず、この本について、一点の注意を。

これは「日本妖怪史」ではありません。「日本妖怪・変化史」でもありません。

「日本妖怪変化史」です。

まだ妖怪というコトバ自体が今ほどに市民権を確立していない時代。「おばけ」「妖怪」「妖怪変化」「魑魅魍魎」「もののけ」等々の呼称が屹立していた大正十二年という時期に出された本です。

それゆえに本書は、「妖怪変化」「妖怪」「変化」それぞれのコトバの定義から始めていますが、大文字の主語は「妖怪変化」です。

そして日本の精神史に登場する「妖怪変化」なるものについて、

「それを実在するものと仮定して、人間との交渉がどうであったか」を分類整理していくという、帰納的博物学の発想で、

妖怪変化を「形態的分類」「生まれた原因分類」「出る場所での分類」「出る時間での分類」「容姿や言語での分類」「性別職業(!)での分類」「能力弱点での分類」とカテゴライズ整理していきます。

つまりこれ、現代でいう「妖怪のデータベース化」の発想なのです!

江馬先生の仕事は、柳田國男先生にとって乗り越えられた先駆的業績などという言われ方もしますが、事態はそう簡単ではない。

われわれの祖先が妖怪変化を語っている事例を集め、徹底的にそれを整理分類するのみ、現代の視点から余計なことを付け加えないというデータベース主義は、むしろデジタル時代の現代にこそ、わかりやすい「妖怪研究方法」ではないでしょうか!

そして、「妖怪変化を、実在しているものと仮定して、あたかも動物学や植物学のように、観察報告をロウデータとして相手の生態や習性を分類していく」という、「昔の人の観察報告原理主義」ともいえるスタンス、私としても大賛成なスタンスなのです!

妖怪変化が「いる」とか「いない」とかの議論は一切無視し、「いると思っていた人たちには何がどう見えていたか」だけを問題にする立場。なるほど賛同!


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