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【古代中世言語をやっている人ゆえのつぶやき】SNSをやっている人はみんなプリニウス『博物誌』みたいになってしまえばよいのでは?

『テルマエロマエ』で有名なヤマザキマリさんが連載中のマンガが、『プリニウス』。めちゃくちゃ面白いですよ

ただ、この歴史マンガの主人公になっている「プリニウス」という人物はナニモノなのかを、知らない人に説明するのはなかなか大変です。

ものすごく凝縮してしまうと、

・古代ローマのストア派の文人。異常な博識の持ち主だった
入浴時以外はいつも勉強をしていた、というほどの「文章の人」。いつも「何かを読んでいる」か「何かを書いている」かのどちらか
全37巻にわたる膨大な『博物誌』(現代でいう百科事典)をライフワークとして書き上げた
・ヴェスビオ山の噴火(いわゆるポンペイの悲劇)の時、わざわざ災害地に乗り込んでいって亡くなった

という感じです。

つまり「このプリニウスというおじさんのキャラクター自体がアツくてユカイで面白いのだ」くらいしか説明のしようがないので、あとはヤマザキマリさんのマンガを読んでいただくしかないのですが、

ヤマザキマリさんのマンガのおかげでこの人物に惚れた私、そもそものプリニウスの著作 『博物誌』全37巻を図書館に閉架からわざわざ出してもらい、車で取りに行って貸し出してもらい、ここしばらく読み耽っている日々が続いています。

日本語版は37巻分を三冊にまとめてくれているのですが、それでもかなりデカく、ずっしり重い!古代ローマの時代によくもまあこれほどの大著を一人の人間が完成させたなと、それだけで感動的!

ですがこの『博物誌』の魅力は、そのスタイルそのものにあります。

天文学、生物学、鉱物学、地理学、はては「産地別のオススメワイン銘柄」(w)まで、ほとんどありとあらゆるジャンルの情報が入っている百科事典なのですが、すべてにおいて作者プリニウスの個人的なウンチク、思い込み、勝手な推測、勝手なスキキライに基づく評価がぶちまけられている

この百科事典の言うことを鵜呑みにすると、「イセエビはタコを怖がっているので、タコを見せただけで即死する」らしいし、「アメフラシは触っただけで病気になる」し、「インド人は赤ちゃんの時から白髪」で、「エチオピアには頭がなくて、目と鼻と口が胸についている人間が住んでいる」ことになる。

「情報を載せるときは信用できる一次資料を参照し、個人の勝手な推測を交えないこと!」という現代人の常識を逆撫でするような、「物知りなオッサンが勝手な空想を交えたウンチクを37巻分ぶちまけている」桁外れのスタイルの本なのです!

ところが、これがすっっっごく面白いのです

で、考えてしまうこと。なんで現代人の私に、こんなにもこの本が面白く感じられるのか?

ふと気づいたのですが、noteを含めたSNSでも、私がフォローするライターさんというのは、「誰でも知っている情報をまとめている人」ではなく、「誰でも知っている情報に、その人の主観に基づいた面白い解釈を加えている人」です。となると、実は私はSNSには「客観的情報」ではなくてむしろ「個性的な思い込み」や「自分とは違う生き方をしている人なりの意外なモノの見方」を求めているのではないか。

だからといって現代人である以上、フェイクニュースや、科学に反するデマをぶちまけることはできないので、どう頑張ろうとプリニウスみたいなスタイルの本は誰も二度と書けないことになるのですが、

SNSでやる以上は、あまり客観的客観的とこだわりすぎるとつまらなくなるので、「俺には世界はこう見えている」な主観は炸裂させたほうがいいのではないか、などとも、思うのでした。

早い話が、たとえば海外旅行でイタリアに行った人がその経験をSNSに書くとして、「イタリアという国の正しい情報を図書館で調べてきました」なんて記事を書いてもしょうがないですよね。「イタリアに詳しい人には間違いと怒られるかもしれないが、わたしにはイタリアはこういうふうに見えました」という荒削りな印象をぶちまけてくれたほうがSNSとしては合っているし、そのほうが面白いのでは、というお話でした。

「ネットに出ている情報は主観だらけのものだし、それでいい。正しい情報がほしいときは図書館にいくから」とみんなが割り切ればよいと思うのですが、ところが確かに実際に「SNSにあがっていた情報を信じたらエライ目にあった、どうしてくれるんだ!」と怒っている人も見かけるので、なかなか難しいところです。

「読むこと」「書くこと」をめぐる永遠の課題ですかね。それにしてもこのネット社会、プリニウスが冥界から見ていたとしたら、どんな感想を抱いているでしょうか?

ぜひ聞いてみたい、と思ったところで、プリニウス『博物誌』の「来世」の項目を見ると、「死後も魂が残るなどというのはヒヨワな民衆の迷信である」とピシャリと書かれていた笑。なんてこった、そもそもプリニウス先生は冥界を信じていないようでした、、、。

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