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【もしクレ】もしクレムリンのロシア大統領のところにロシア文学のキャラクターが現れたら(『ベルゼバブの孫への話』グルジェフの場合)

その日。大統領は秘書に
「しばらく誰も入れるな」と言いつけ、
執務室で熱心に、
機密書類に目を通していた。

ふと、大統領は、
何やら奇妙な振動を感じた。

書類から顔を上げてみると、、
なんということだろう!

いつのまにか、大統領は、
机・椅子と一緒に、
あたかもハリウッドの
スペースオペラ大作にでも出てくるような
巨大な宇宙船の中にテレポート
させられていた!

窓外には、漆黒の宇宙空間に、
たくさんの銀河が美しい
渦を作っている。

「こ、、、これは
一体どういうことだ!」

大統領がそう叫んだ時。

のそっと、大統領の正面の、
巨大な影が、こちらを向いた。

そこにいたのは、ああ、
見るだけで恐ろしい。

頭にツノを生やし、
太い尻尾をゆらゆらと動かしている、
言いようのない威厳に満ちた
巨人であった。

「・・・なんだ。
三脳生物か」

その巨人は、轟く声で言った。

「これは困ったな。
どうやら、この宇宙船
カルナック号を修理した際、
何かの波長が、
お前が『地球』と呼んでいる星の、
お前の精神波とシンクロしてしまい、
お前をテレポートさせて
しまったようだ」

「あ、あのう、、、」
大統領は、巨人に向かって、
おそるおそる、訊いてみた。
「ここは、、、どこでしょう?
宇宙船の中、、、と、
仰っておりましたが、、、?」

宇宙船カルナック号の中だと
言ったばかりだろう?
知覚したことをすぐに忘れる三脳生物め。
器官クンダバファーが除去されたせいで、
もはや目の前に見えているものすら
まともに見ていないのか?」

「え?なに?」
いきなりのSFチックな造語の
説明なしの連続羅列に、

大統領のアタマは混乱した。

「まあよいわ、三脳生物よ。
愚かなお前にもわかりやすいよう
教えてやろう。
ここは宇宙船カルナック号。
いまは、アソーパラツァータ空間
すなわち銀河系空間から
パンデツノク太陽系へ向かっておる。
パンデツノクの太陽は、
お前の星では『北極星』と
呼ぶのだったな」

「え、え、え??」

「私の名はベルゼバブ。
今は惑星レヴォツヴラデンドル
開かれる特別な会議に赴くところだ」

「え?なんのハナシかさっぱり、、、」

「やれやれ。仕方もあるまい。
お前もまた、あの惑星に住む
愚かな三脳生物の一人。
非常に聖なるアシアタシーマッシュ
神聖なる仕事を無に帰してしまった
愚かなる種族なのだからな。
まあよい。話に付き合ってやろう。
わしは何度か地球にも
行ったことがある。
お前はどの国のモノだ?」

「はあ、、、ロシアですが」

「ロシアか!知っておるぞ。
お前ら三脳生物がもたらした
数々の害悪の中でも、
とりわけロシアでは、
器官クンダバファーが除去されてから
第二トランサバルニアン大変動までの間に
かろうじて実現されていた均衡が、
露骨に崩壊したものだったな。
お前らはすみやかな
自己完成に対する努力のかわりに、
お前らの悪しき内なる神
支配権を譲り渡してしまった。
しかし良心に支えられていない
悪しき内なる神による欲求など、
せいぜい、お前らが
ボルシェヴィズムと呼んだものと
同じプロセスを辿るのが
関の山なのだ」

「、、、はい???」

「たしかに、わしは、
このツノや尻尾を隠し、
ロシアで暮らしてみたことがある」

「、、、あのう、
地球に、、、帰して、
くれませんでしょうか、、、?」

「そしてわかったものは、
つまりこういうことだ。
お前らはあらゆる手段を使って
ロジクネスタリアン部位に、
お前らの異常な生存から
生じた結果に過ぎぬ人口知覚
できるだけたくさん、
植え付けようとしてしまうのだと」

「地球に、帰して、
くれませんでしょうか、、、?」

「次のことは、よく理解してしておけ。
お前らは一定の年齢に到達すると、
異なるテンポの二つの
インクリアザニクシャナス
どちらか一つが、
テンポ=ダヴラクシェリアン循環
引き起こすのだ」

「地球に、、、帰してください、、、」

「ああ、そうか!
今している説明のためだけでなく、
これから先の説明を理解するためにも、
お前はまず、
ハンブレッドゾインについて
詳しく知っておかねばならんな。
ハンブレッドゾインとは他でもない、
生物のケスジャン体のことだ」

「地球に帰してくれーーー!!」


※注:『ベルゼバブの孫への話』は、「宇宙船カルナック号」なるものに乗っている賢者ベルゼバブが、このような感じのSF的な造語でひたすらに人類への啓示を語る(なんとなく、人類の歴史を大解説しているぽい)のだけど「器官クンダバファー」やら「第二トランサバルニアン大変動」やらといった独自用語のラッシュとなるので、著者グルジェフのよほどのカルト的読者でないと解読不能(というか私個人的にはグルジェフのカルト的な読者であっても全容を理解できた人は地上にいないのではないかと疑ってます)というシロモノ。20世紀ロシア圏が生んだ最大の奇書と思うています

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