岩波少年文庫『ホラー短編集』全エピソードを解説する!#2
昨日の以下の記事で、第1巻『八月の暑さの中で』の全エピソードを紹介させていただきました。
続いて今回は第2巻『南から来た男』に収録の作品を紹介させていただきます!
前回と同じく、★マークはめちゃくちゃ私の主観的「好み」ですので、あくまで参考程度の評点と見てください。
ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語(★★)
第一巻と同じく、訳者による「翻訳ならぬ翻案」が第一話として収録されています。これまたいささか好みの分かれる「翻案」。ただし、原作となっているエドガー・アラン・ポーの作品を読みたくなるという意味では、児童読者向けにこういう趣向の話を持ってくるのは、なるほど、アリと思う。
南から来た男(★★★★★)
ロアルド・ダールの短編の中で私はこれが一番好き。緊迫感、薄気味悪さ、ラストの後味悪さ、すべてがキマッている。そういえばクエンティン・タランティーノの『フォー・ルームス』という映画に、このエピソードを翻案したこれまた奇妙な味わいの話がありましたね。
家具つきの部屋(★★★)
第2巻収録作品中ではむしろ珍しい、オーソドックスな幽霊もの。オチのテイストは第1巻収録の『もどってきたソフィ・メイソン』にちょっと似ている。
マジックショップ(★★★★)
私が大好きなSF作家、H・G・ウェルズも本巻に登場!スピルバーグによる翻案映画化も有名な『宇宙戦争』などで知られた作家さんですが、このような純粋なダークファンタジー短編も書いていたとは知らなかった。怪作。
不思議な話(★★★)
残酷な童話のような雰囲気。マザー・グースの唄みたいに、子供の世界を描いているのに不条理で気持ち悪い。いったいあのおばあさんはなんだったのだろう、、、?
まぼろしの少年(★★★★)
イギリス怪奇小説界の大御所の一人、アルジャーノン・ブラックウッド先生も本巻に登場!そう、大変尊敬する作家さんなので、あえて「先生」と呼ばせてください!本作はゴーストストーリーかと思わせておいて、泣きたくなるほどの切ないエンディングに持ち込まれる。
エミリーにバラを一輪(★★★★★)
なんとなんと「児童向けホラー短編集」という括りの本にフォークナーを入れ込んでくるとは!やりますね、岩波少年文庫さん!アメリカ南部の雰囲気を活かしたなんとも陰惨な物語。日本のジュニア層読者がこれを読んで「アメリカの南部ってどんなところで、どんな歴史があるんだろう?」などと興味を持ってくると嬉しい。
悪魔の恋人(★★★★)
第二次世界大戦中、空襲に備えて人々が疎開をした後のロンドン。過去の因縁にとらわれているご婦人。待っているタクシーの列。これはいかにもイギリス流の幽霊が出るべきシチュエーションですな、と思っていたら、ちゃんと「デター!!」となってくれた!『世にも奇妙な物語』とかに翻案できそうな雰囲気。
湖(★★★)
こちらはアメリカのファンタジー作家の大御所、ブラッドベリの登場です!とはいえ、ブラッドベリ氏にはもっともっと素敵で怖い作品がいっぱいあるので、これを読んでピンときた方は是非、彼の短編集に入っていってほしい。たとえば私の好みでは以下↓
小瓶の悪魔(★★★★★)
『宝島』や『ジキル博士とハイド氏』で有名なスティーブンソンの、これまた有名な傑作。「呪いのビデオテープ」みたいに、「一定条件を満たすことで呪いを他人に移し、自分は助かることができる」というルールに縛られた人々の駆け引きの物語。ともあれ本作のルールはマネーに関する観点が入ってくるので、子供向けの経済学の授業なんかで取り上げると面白いのでは、と思う。「自分だったらどんな手を使って他人に呪いをなすりつけるか」をブレストすると、人によっていろいろと案が出てくるのでは?本編の主人公も途中で気づく「他国の通貨にいったん替える」というのも良手だが、他にもいい手段があるかもしれない。
隣の男の子(★★)
一気に現代アメリカの短編になってしまうので、むしろ本シリーズの中では異色作に見える。アイスクリーム屋のバイト、テレビ、ホラー映画を観に行くデート、などなど、現代アメリカのティーンの生活が垣間見える。しかしこれは私に言わせればウェス・クレイヴンの影響を受けていた世代ならではのホラーではなかろうか!というわけで、作品そのものの出来は好みではないものの、背景となっているサブカルの引用について私には語りたいことがいっぱいある作品!別記事を設けて、いずれアツく説明したい。
以上、『南から来た男』収録の全11作品を紹介させていただきました!何かピンとくるものがあったら、ぜひ、手に取ってみてください!