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小泉八雲はどんな人?―『ちくま評伝シリーズ〈ポルトレ〉小泉八雲』のススメ

ちくま評伝シリーズは、筑摩書房が中学生~高校生ぐらいの子どもに向けて書いたいわゆる偉人伝的なシリーズである。

比較的新しいシリーズということもあって、やなせたかしや手塚治虫、海外だとスティーブ・ジョブズやマーガレット・サッチャーなどを取り扱っている点が面白い。

私は司書の現役時代、仕事の最中にこれを見つけた。そして我が家の恒例行事である年越し旅行で松江行きが決まった際には、大いに活用させてもらった。

松江と言えば、小泉八雲である。

もともと妖怪に興味があり、そしてDMM配信のゲーム『文豪とアルケミスト』にハマっていた私にとって、これは見逃せない。
松江に行くなら何が何でも私を小泉八雲記念館に連れていけ、なんならそこに一人捨て置いてくれて構わない。私は年甲斐もなく家族に駄々をこねた。

幸い、我が家は文学館だの博物館だの、そういった学術施設に対して抵抗はなく、むしろ観光の一つとして受け入れている家だったので、この要望はあっさりと通った。

そうなると、さあ予備知識が欲しいところである。

文学館などは何も知らずに行っても楽しいが、ある程度学習していくと更に楽しいことを私は経験から知っていた。

小泉八雲について、その人生についてざっくりとした概要が書かれた本が欲しい。もっと言うなら簡単な本であるとありがたい。

そんな時にこの本の存在を思い出し、職場からちゃっかり借りたのだった。

これは改めてまた別に記事にしたいところなのだが、児童書(今回の本は厳密には思春期向け、YAであるが)というのは実は浅く広く知識を得たい時には有効な手段の一つである。
子どもに読ませるという性質から文体は容易で、フォントも大きい。注釈などの説明も丁寧に入れられる。それでいて事典だとか偉人伝だとかの本になってくると教育的な側面を併せ持つので、情報は広くバランスよく、子どもが読み切れるようにコンパクトにまとめられる。

これはレポートや論文の執筆経験がある人ならわかると思うが、なかなかに難しい仕事である。難しいことを難しく書くよりも、難しいことを誰にでもわかるように書く方がとても難易度が高いし、情報の圧縮には力を要する。しかし児童書は常にそういった姿勢が求められるので、下手をすれば大人の本などよりも慎重かつ丁寧な作りになっていたりするのだ。

この『ちくま評伝シリーズ〈ポルトレ〉小泉八雲』は果たして、私の期待に見事応えてくれる本だった。

東京から松江のある出雲への飛行機は1時間25分程度だったろうか。集中して読んでしまえば、着くころにはすっかり読み終わる程度の長さで、小泉八雲の生まれてから亡くなるまでの人生の基礎をしっかり私に叩き込んでくれた。

容易な文章で語られる小泉八雲の人生は波乱万丈だ。居場所を失い、身に合わない教育文化の中で苦しんだ孤独な幼少期、失業と再就職を繰り返しながら世界を流れ続けた記者時代。松江での幸福な出会いをはじめとする日本での日々。
なんだかちょっとした冒険ものを読んでいるような気分になった。
しかも本の中には小泉八雲の著書の引用や紹介は勿論、周囲の人物の書簡などもたっぷり使われていて、好奇心をそそってくれる。妻となった日本人女性セツの証言などは、小泉八雲の愛情深さがしみじみと伝わってきて、心がほっこりと溶かされてしまう。
本の最後に年表と読書案内を載せてあるのもありがたい。

小泉八雲についてざっくりと知るには本当に最適な本であったし、自信をもって人に薦められる本だったと思う。
あまりにも面白かったので、結局私は自分用に購入してしまった。ついでに筑摩書房にまで、ちょっとした下心つきの感想メールを送ってしまったのだが……まあそれは関係のない話である。


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