マネジメント サントリー、45歳定年についての私見
先日、マーケティングの講義を担当しているクラスの学生さんから、サントリーの新浪社長が提案した、45歳定年制について意見を求められました。
これまでお読みいたただいている方はご存知の通り、僕は大学の教員出身ですから、学生さんからは、単にマーケティングというより、経済学や経営学者に加えて、社会科全般の専門家という認識です。そのため、しばしばこうした質問も受けますし、就職活動について助言を求められることもあります。
講義だけでなく、デザインの課題についても質問を受けます。これまであまりありませんでしたが、新型コロナウイルスが発生してからは、おそらくご父兄の不安や、口からこぼれた言葉でしょうか、今後の働き方がどうなるかという質問を受けることもあります。
そこで今回は、45歳定年制について、あくまでも私見ですが、考えを述べたいと思います。
・高雄港での出来事
2000年頃、視察の一環で、台湾の高雄港へ行きました。そのとき連れて行って頂いた先生(恩師)は、日本を代表する海運の専門家でしたので、Sealand Marskという、海運大手の高雄ゼネラルマネージャーが案内して下さいました。
この方は、当時40代半ばでした。アメリカで、経営工学の博士号を取得し、そのときの仕事が2社目だということでした。この方の場合、Sealand Marskでは、年齢による定年はなく、勤続年数の上限が15年とのことでした。
実はこのような例は、海外では珍しくありません。特に上級管理職になるほど、年齢ではなく任期がもうけられており、組織の硬直化を起こさないようになっています。むしろ民間企業が、官僚型組織で、日本的経営を維持している日本企業の方が珍しいです。
・ある大学でのお話し
これは、過去にいくつかの大学で問題になったできこです。
大学の教員の給与は、勤続年数と役職(講師、准教授、教授)で決まっています。他の大学から移籍した教員も、それまでの経歴を考慮し、職域の最低額になることはありません。
大学の場合、既存の教員が退職して初めて、教員の募集をします。私学などで、良い先生を集めるような場合を除き、退職者は高齢で、採用は若手ということになります。
つまり給与の少ない若手が最も少なく、高齢の、給与の高い教員ほど多くなります。そのため、大学の人件費の構造は、逆三角形型になります。
ところで、大学の教員の評価は論文で行われます。
少子化により、学生数が急速に減ったことで、多くの大学が経営難に陥りました。表向きには言えませんが、少しでも経費を減らしたい大学では、教授の人数を決め、業績があっても昇格させないということが行われました。
これは、今になって思うことですが、、、この頃から、以前と違ったアカハラやパワハラが、あからさまになったように思います。
・組織と費用構造
実はこの、人件費が逆三角形型の組織は、一般企業にも見られます。必要以上に役員が多く、若手の離職率が高い企業です。
こうした企業は、往々にして、組織の硬直化が発生しており、新しい意見などを取り入れない傾向にあります。
しかしよく考えてみれば、企業別組合、終身雇用、年功制の「三種の神器」による「日本的経」」は、逆三角形型にならざるを得ません。
日本的経営は、戦後復興、発展の基盤となりましたが、バブル経済末期には、明らかに日本の生産性を低下させます。なぜなら、復興、発展期までは、一丸となって働くことで、社会と生活を豊かにしました。つまり、社会の多くの人が、共通の目標に向かっていたためです。しかし日本が豊かになり、個々の目標や豊かさが優先されると、いわゆる「企業内政治」が横行し、合理性よりも利権が優先されたのです。
こうなると、逆三角形の上部を占める人達は、企業の生産性にほとんど寄与していません。今回のテーマの、45歳定年制は、正しく日本企業が脱却しなければならない問題への提案と受け止めました。
これは逆の現象の皮肉な事例ですが、、、
街づくりでも同じ事例をいくつも見ました。最初は盛り上がるのですが、少しずつ盛り上がりを見せ、規模が大きくなると、「儲かった人、損した人」といった軋轢が生まれます。しかし、財政が破綻した街は、それまでの軋轢を忘れて、皆で協力しています。
・45歳定年制をどう考えるのか
経営学の世界では表向きには口にしませんが、90年代から日本企業は、「現場1流、経営3流」と言われています。
45歳定年制は、全ての企業で機能するわけではありません。そもそも、中小・零細企業では、高齢化が進んでいますから、例えば社員が全て50代以上という企業では、誰も働く人がいなくなってしまいます。
また能力給ベースの仕組みがない日本では、この制度は成立しません。サントリーの創始者である鳥井信治郎の、「やってみなはれ」という社風と、この考えに培われた信用をもたらす製品があればこそでしょう。
以前、最新のビジネストピックスが、必ずしもうまくいくとは限らないという記事を書きました。45歳定年制は、日本の企業には必要な考え方だと思います。ただし、まずはその考えを理解してから判断する必要があります。
今回、この提案に多くの批判があったことから、新浪氏は、定年という表現が適切でなかったと発言しています。
しかし、皆さんの職場の効率を向上させるために何が必要でしょうか。既存の概念を越える考え方が求められるのではないでしょうか。
僕は、今回の提案は、その1つだと思います。
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