誰でも説明上手になれる「話し方」のテンプレを大公開!
結論ファーストが常に正しいとは限らない
話し方やプレゼンのテクニックでは、よく「結論から話せ」といわれます。確かに「結論ファースト」は、30秒~1分ほどの短い時間でプレゼンする場合にはオススメです。
しかし相手に自分の頭で考えてもらいたいときは、「結論ファースト」は不向きです。また、「文脈」が理解されにくいという側面もあります。「文脈」とは、端的にいうと「説明している情報以外の知識」です。当たり前ですが、自分と相手は当然、持っている知識も違えば、領域によっては知識レベルも違うでしょう。
だからこそ、相手に何かを伝えるときは、その目的やシチュエーションによって変えていく必要があるのです。
たとえば、次の例文はどちらに興味が惹かれるでしょうか。
A「聖書は世界一のベストセラーです」
B「世界一のベストセラーをご存じですか? 実は聖書なのです」
相手の関心を引きたいときは、B のほうが好奇心が刺激されるのではないでしょうか。
交渉のときも「結論ファースト」ではうまくいかないことがあります。いきなり、「こちらの結論はこうです。以上」と言われたら、条件のすり合わせや駆け引きができず、そこで交渉が決裂してしまうかもしれません。
説明上手な人は、目的やシチュエーションに合わせて、「わかってもらいたい内容」に最適な順序で説明を組み立てています。この組み立て方さえわければ、誰でも説明の伝わりやすさは格段に上がるのです。
私は塾や予備校で講師として20年間ほど登壇し、その現場経験の中で、うまくいった説明、うまくいかなかった説明のパターンを分析し、さまざまな説明の「型」(テンプレート)を作ってきました。現在は、会社を経営する傍ら、大学院で「認知科学」という学問をベースに研究も行っています。こうして作ってきた80の「型」を一冊にまとめた『説明組み立て図鑑』の中から、ここでは「要約の型」と「3、5、7の型」を紹介しましょう。
例1「要約の型」
時間がない中で全体像を知ってもらいたいときの型
この「要約」の型は、伝えたい情報量が多いが、説明できる時間が短かったり、文章での文字数が限られていたりするときに用いると効果的です。実生活においては、特に忙しい相手に対して説明する際に有効です。
組み立てStepの説明
Step1「本当は、話すと2 時間かかってしまうのですが……」
本来伝えたい情報量の全容を暴露します。
Step2「今回は要約した内容を30分でお話しします」
その膨大な情報を要約した旨と、要約した結果どれくらいの分量になったのかを伝えます。要約する分量は、10分よりも1 分、1000字よりも100字のほうが、当然のことながら相手の負担は減ります。本来伝えたかった情報量に対してどれだけの分量に要約できたのかが重要です。
しかし、短ければよいとは限りません。確かに本来1 時間あるいは数時間かけて説明するものを、常に1 分に要約できたら素晴らしいですし、物理的な制約上、その分量にせざるを得ないこともあるでしょう。
ですが、無理矢理1 分にまとめなくても、たとえば、本来1 時間のボリュームがある情報を1 分しか話さなかったら、相手が理解不足に陥ったり、不安になったりする可能性も出てきます。
覚えておいていただきたいのは、「説明は短くすればいいというものではない」ということです。分量を短くすることは、あくまで1 つの手段であって目的ではありません。
説明の目的は「相手にわかってもらうこと」、「相手の行動を変えること」、「相手の変化を継続させること」です。この目的を損なわないレベルで「要約」の型を使うことがとても大切です。
Step3「要は、……です」
実際に要約した内容を伝えます。一言で済む場合には、「要は、……」、「まとめると、……」のような前置きにつけると効果的です。前述のように、要約は必ずしも一言に収めなくても大丈夫です。
組み立てポイント
情報量が多く、物理的に説明しきれないときに情報をカットして説明する「型」には、「抜粋」の型というものもあります(『説明組み立て図鑑』にて解説)。違いは、「抜粋」の型の目的が「膨大な情報を部分的にでもわかってもらう」ことであるのに対して、「要約」の型の目的が「情報の全体像やエッセンスを相手に把握してもらう」ことである点です。また、説明の組み立て方として、「抜粋」の型は「切り取る」や「そのまま抜き出す」といったイメージですが、「要約」の型は「圧縮する」や「重要な部分のみ抜き出してつなぎ合わせる」イメージであるという違いもあります。
具体例
>話し方の場合
Step1
本書『説明組み立て図鑑』のすべての型を研修で説明しようとすると、6 時間以上かかってしまいます。
Step2
時間も限られていますので、本日は要点のみをまとめ、10分でお伝えしようと思います。
Step3
Step3 その要点とは、……。
>書き方の場合
(メールで資料を送るが分量が多いので、要点だけまとめて伝えたい場合)
Step1
この資料は全部で100ページにもわたる文書となります。
Step2
すべてに目を通す時間もないと思いますので、この文書の要点となる部分をA4 用紙1 ページにまとめました。
Step3
「 要約」として添付いたしますので、ご確認ください。
例2「3、5、7の型」
チャンクとして認識してもらうための型
素数とは、1 とその数自体のみでしか割れない1 より大きい数字です。具体的には2、3、5、7、11、13、17、19、……です。この型は、相手に覚えてもらいたいものを、なかば強引に、いずれかの素数に分割して伝えます。特に、3 、5 、7 が効果的です。なぜ、この数に分けるのかというと、割り切れない数だからです。分割できないものをヒトは「一括り(チャンク)」として認識します。ヒトはバラバラで覚えようとするよりも、括ることで記憶を保持しやすいということがさまざまな研究結果で明らかになっています。
組み立てStepの説明
Step1「今回お伝えしたいことは、●つあります」
テーマやポイントの数を、素数に分けて提示します。たとえば、「今回お伝えしたいことは、●つあります」や「本テーマのポイントは●つです」のようなフレーズです。
Step2「この●つを覚えておくだけで十分です」
その素数の分だけ押さえておけば問題ないことを伝えます。これは、素数で分けたものすべてが1 つのチャンクであることの念押しもかねています。
Step3「具体的には、……の●つです」
それぞれの内容を簡潔に羅列していきます。「具体的には、▲▲、■■、××の3 つです」のようなフレーズです。ここは、相手のワーキングメモリーがオーバーしないよう、それぞれ簡潔に伝え、あくまで素数個あることを優先的に伝えます。
組み立てポイント
ベストな素数は、口頭でのみの説明では「3 」、書いて説明できる場合には「5 」または「7 」を用いるのがよいでしょう。これは、認知心理学者のジョージ・ミラーによる短期記憶の容量を測定した研究から明らかになっている数です。相手にどうにか覚えておいてもらいことがある場合は、その個数を素数の分だけ用意できるようにしましょう。
具体例
>話し方
Step1
相手に何か覚えてもらいたいときの説明のコツは、全部で3つあります。
Step2
この3 つさえ覚えておけば十分です。
Step3
具体的にはリピートすること、素数に分けること、関係性を暴露することの3 つです。
>書き方
Step1
アメリカの心理学者アブラハム・マズローによると、ヒトの欲求は5 段階の階層になっている。
Step2
「人間は自己実現に向けて絶えず成長する」と仮定して、ヒトは 5つの欲求を段階的に満たしながら、自己実現へ向かうと解説した。
Step3
その具体的な欲求は、下から順に以下の5 つとなる。
・生理的欲求
・安全の欲求
・社会的欲求
・承認欲求
・自己実現欲求
今回は2つの「型」の紹介でしたが、目的やシチュエーションが合致していれば、これらの型にあてはめるだけで、簡単に相手に伝わりやすくなるはずです。ぜひ試してみてください。
※本記事は『説明組み立て図鑑』の一部を再構成したものです