見出し画像

【読書録】『美食の教養』浜田岳文

今日ご紹介する本は、浜田岳文『美食の教養』(ダイヤモンド社、2024年6月)。副題は、『世界一の美食家が知っていること』

著者は、フーディーという生き方をしている。フーディーとは、「世界中を飛び回り、現地の美味しい店で食べる、これを日常的に繰り返している人たち」(p18)のこと。著者が食べ歩いたエリアは、南極から北朝鮮まで127の国と地域に及ぶ。

また、著者は、「OAD 世界のトップレストラン(OAD Top Restaurants)」のレビュアーランキング6年連続1位に輝く、トップ美食レビュアーでもある。副題のとおり、まさに世界一の美食家だ。

本書は、そんな美食のプロである著者が、「美食」というテーマを徹底的に極めるもので、他に類を見ない珍しい本だ。

美食について様々な観点から深掘りしながら、グルメ好きの読者ならばぜひとも知りたいであろう実用的な知識やノウハウも、たくさん盛り込んでいる。

そして、巻末特典として、著者選出による「世界の注目すべきレストラン50」という貴重なリストも掲載している。総ページ数は391ページにものぼり、驚異の情報量だ。

私は、食べ歩きが趣味の、自称「グルメハンター」だ。今まで、細々とnoteにグルメ記事を書き続けてきた。そんな私が、この本と対峙しないわけにはいくまい。師匠に教えを乞う弟子のようなスタンスで、この本を開いた。

その結果、美食の奥の深さに、恐れ入った。何という、めくるめく世界。これは、ハマると抜け出せない、深淵な沼だ。世界一の美食家が、人生を全振りして得た知識やノウハウを惜しみなく共有する、マニアックすぎる美食ガイドブック。全国のグルメ愛好家のバイブルになるだろう。

そして、美食そのものについての記述もさることながら、著者の考え方や生き方が垣間見えるくだりが、とても強く印象に残った。以下、引用させていただく。

**********

美食の評価について、好き嫌いと良い悪いを混同すべきではないと説くくだり。

 好き嫌いは、人間だから当然あります。ただ、それを良い悪いと混同してはならない。好き嫌いはあくまで個人の感想なので、否定されることはありませんが、同時に議論も成り立たない。感想を投げ合っているだけだからです。良い悪いは、価値評価です。だから、絶対的な価値基準がない中でも、議論のベースとなりうる。なぜいいのか、というロジカルな説明が生まれるし、確かにそうだ、いやそうではない、なぜなら……という議論につながるからです。
 ビジネスなどでもそうですが、日本人はこれを混同しがちだと感じています。より良い方向にビジネスを進めるために知恵を出し合って意見を戦わせているのに、自分の意見を否定されたら、それを個人攻撃のように捉えて、感情的にこじれる。そしてそうなるのが嫌だから反対意見をいわない。みなさんも、こういう経験があるのではないでしょうか。

p28-29

そして、著者がなぜフーディーという生き方を選んだかについてのくだり。

 よくいわれるのが、「よほどお金と時間があるんですね」「贅沢なライフスタイルで羨ましい」。世の中には、お金と時間があり余っているから世界中を旅して食べている人もいるでしょう。ただ、多くのフーディーは、他の趣味や生きがいに打ち込んでいる人と変わらず、特に富裕層ばかりではありません。単純に、お金を使うプライオリティの問題なのです。

p378-379

 では、なぜ僕が世界中を食べ歩いていけるのか。それは、いろんなものを犠牲にして、食と旅に全振りしているからです。自分が興味がある特定少数のこと以外に、全くお金を使っていない。ちなみに2024年で50歳を迎えましたが、いまだに独身です。今のライフスタイルを続ける限り、結婚したり、子育てをすることは難しいかもしれません。

p379

 音楽など文化に接していたり、旅をしていたり、食べているときこそが、生きている感覚が得られます。今を生きているな、と思える。
 同じ場所にずっと佇んでいると、水が流れていない、澱んだ感覚が自分の中に生まれてしまいます。だから、食を求め、音楽を求め、旅に出るのです。

p381

 よく変わっているねといわれますし、多分そうだろうなと自覚していますが、何かに人生を全振りしている人はジャンルが違っても似たような感覚をお持ちではないかと想像します。
 僕は外食に特化していますが、何かひとつのことを知的好奇心の赴くままに掘り下げることでどれだけ人生が豊かになるか、この本を読む中で少しはお伝えできたとしたら幸いです。

p383-384

**********

美食に全振りした著者の生き方に、圧倒された。

私の好きなグルメは、どちらかというと庶民的なB級グルメだ。著者の追求する至高の美食とは、ジャンルが異なる。それに、私の食の評価は、著者のような緻密なものではなく、主観的で感覚的な「好き嫌い」によるもので、お気楽な趣味でしかない。

しかし、著者の食に対する情熱や思い入れについては、大いに共感した。たとえば、美味しいものを食べているときには「今を生きている」と感じる、というくだり。そして、グルメの探求が人生を豊かにするというくだり。

私の生活も、著者のレベルには遠く及ばないが、結構、(B級)グルメに支配されている。美味しいものを求めて料理店を調べ、お店に出かけ、食べ、それを自分なりに評価する。それを繰り返す生活を送っている。

通勤の合間に寄り道をしたり、グルメを中心とした旅の計画を立てたり。暇さえあればグルメの検索をしていて、気づいたら数時間が経っていてることもある。あまりに熱中しすぎて、仕事や家事などの妨げになることも、しばしばだ。しかし、こうやってグルメに熱中できることは、シンプルにとても楽しくて、幸せだ。

グルメに限らず、誰が何と言おうが、好きなことに没頭すること。自分にとって大事なことに全振りすること。そういうことの尊さを、教えてくれる本でもあった。

ご参考になれば幸いです!

私の読書録の記事へは、以下のリンク集からどうぞ!

私のグルメ系記事へは、以下のリンク集からどうぞ!

いいなと思ったら応援しよう!

サザヱ
サポートをいただきましたら、他のnoterさんへのサポートの原資にしたいと思います。

この記事が参加している募集