今日ご紹介する本は、デヴォン・プライス著の『「怠惰」なんて存在しない』(2024年5月、ディスカヴァー・トゥエンティワン)。訳は、佐々木寛子氏。
夜、仕事から帰宅して、パジャマに着替えたら、ついつい、スマホをいじって、だらだらとネットサーフィンをしてしまう。ハッと気がついたら結構な時間が経っていて、罪悪感に苛まれ、落ち込んでしまう・・・。そんな経験のある方は多いのではないだろうか。私も、そのひとりだ。
そんななか、この本に出会った。罪悪感、焦燥感まみれの状態を肯定してくれて、とても気が楽になった。真面目で頑張りすぎる傾向のある人にぜひ読んでほしい本だ。
以下、長くなるが、特に印象に残った箇所をまとめておく。
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まず、ダラダラしてもいいんだよ、と言ってくれたことが、とても嬉しかった。資本主義などに由来する、勤勉を強いる社会。そして最近は、ネット社会での情報の氾濫、ゲーミフィケーションによる生産性の数値化などにより、一層拍車がかかっている。社会が規定する理想の姿と比べて減点方式で自分を追い詰めてしまう。
また、マイノリティーを「怠惰」と考えがちな社会にあって、他者に対しても生産性だけを基準として評価する危険性に気づかされた。私が10年以上身を置いている外資系企業では、特に、生産性信仰が強いと感じる。組織における評価基準が生産性であっても、その人の人間性を評価するものではない。改めて肝に銘じたいと思った。
この本を読んで心がけようと思ったことは、以下のようなことだ。
疲れたら、罪悪感なく自信をもって堂々とダラダラする。仕事や家事を完璧にしなければ、ダイエットをしなければ、という強迫観念を持ったとき、立ち止まって、「怠惰のウソ」ではないか?と自問自答してみる。社会の期待に沿って自分を追い込むのをやめる。自分の内なる声を聴いて、何が好きで、心地よくて、何に嫌悪感を抱くか、という感覚を大事にし、自分の軸を形成していく。
一見、怠惰に見える他者に対しては、その人が怠惰に見えてしまう事情が何かないのかを想像する。生産性以外の基準でその人の良いところを探す。ただし、他者に依存されたり利用されたりしそうな場合には、適宜ブロックするなりして、自分を守る。そうすることによって、他者も自分も大切にする。
私にとっては、この本はめちゃくちゃ心に刺さり、響いたのだが、この本が合わないタイプの人もいるだろう。
まず、既に、この本で書かれていることを、意識的にまたは無意識的に実践できている人。「怠惰のウソ」を見破り、他者や社会の圧に屈することなく、人生を楽しく過ごしている人。良い意味でマイペースな人。そういう人たちには、本書の内容は当たり前すぎるかもしれない。
また、やみくもにダラダラした生活を送りたいだけの人にも、向かないだろう。本書は、ただ単にサボることを推奨する趣旨の本ではない。まあ、そういう人はそもそも、本書のような自己啓発系の本に興味を持たないだろうが・・・。
本書の一番の想定読者は、「怠惰のウソ」に追い立てられて、終わりなき競争地獄に消耗している人や、他者や社会の期待に応えられないことに罪悪感を持ち、自己肯定感が持てず喘いでいる人だろう。そんな人にとっては、本書は救いの一冊となるのではないか。この本を読むことでセルフケアができ、深刻なメンタルダウンに至ることを防いでくれるのではないか。
また、他者を社会常識や生産性だけで判断してしまいがちな人にとっても、本書は、貴重な示唆を与えてくれる。他者それぞれの事情に思いを馳せて、一人ひとりを大切にする視点に気づかせてくれるだろう。
ご参考になれば幸いです!
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