今日ご紹介する本は、日本の誇るノーベル賞作家・川端康成の小説『古都』。昭和36年から37年にかけて、朝日新聞に連載された長編小説だ。私が持っているのは、何十年も前から実家にあった、古い新潮文庫版(昭和60年、47刷)。これを久しぶりに読んでみた。
タイトルの「古都」とは、京都のことだ。ストーリーとしては、京都を舞台とする、商家の若いお嬢さんにまつわるお話(ネタバレ防止のため、あらすじは書きません)なのだが、とにかく、美しい小説だ。
京都の名所、風景、花や植物、祭り、食材や料理。それらが、春夏秋冬すべての季節にわたって、鮮やかに描かれている。着物や帯の柄にまつわるやり取りや、京言葉などは、とても優雅だ。そういった京都の風物は、現代から見ると浮世離れしているようでありながら、日本人のDNAが刺激されるのか、どこか懐かしい感じがする。
この小説には、難解な言葉は全く出てこない。きわめて平易な日本語を使っている。登場人物の会話や、風景や風物の描写だけで、登場人物の心の動きをありありと連想させる表現力たるや、圧倒的だ。その時代、京都のその場所で展開する物語を、実際に目の前で見ているような錯覚に陥る。
特に、「庭のもみじの木の幹のくぼみに生えている、2株のすみれの花」については、繰り返し出てきて、主人公千重子の感情の機微とシンクロする。
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ところで、川端のあとがき(昭和37年6月)は、必読だ。日本画家の東山魁夷が、本作品に登場する北山杉を描いた「冬の花」という作品を、川端の文化勲章のお祝いに贈ったこと。川端がその作品を本人の許しなく口絵としたこと。川端がこの作品を睡眠薬を使って書き、「眠り薬に酔って、うつつないありさまで」書いた「異常な所産」と表現していること。読み返すのが不安で、出版もためらっていたこと。校正にかなり骨を折ったこと。京言葉は地元の人に監修してもらったこと。こういったエピソードから、舞台裏を覗くことができたような気がして、この隙のない完成された文学作品が、少し身近に思えてきた。
ちなみに、東山の「冬の花」という作品は、このような絵だ。以下の2つのサイトに紹介されているのを見つけた。
そして、私の持っている文庫版に収載されている山本健吉(文芸評論家)の解説も、また良かった。特に次のくだりは、この作品の特徴をとてもよく表現している。
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この令和の日本は、何事につけグローバル化の影響を受け続けているし、インバウンド真っ盛りで、外国人向けのサービスなども充実してきた。それは良いことではあるが、そのために、この作品の世界観のような、情緒豊かな古き良き京都の良さ、日本の良さが失われないように願うばかりだ。
読了して、すぐにでも京都に行きたくなった。また、老後に、京都に住んでみたいとさえ思った。京都が好きな方、京都への旅行を検討されている方には、特におすすめだ。
ご参考になれば幸いです!
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