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【読書録】『マンション大全』三井健太
今日ご紹介する本は、三井健太氏の『マンション大全』(2019年、朝日新聞出版)。副題は『伝説の目利きが教える「買っていい物件」の見極め方』。
私の故郷の田舎町に住む友人が、東京圏に引っ越すことになり、居住用のマンションを探し始めた。賃貸でも良いが、できれば購入をしたいという。
そこで、現在東京都内に住んでいる私は、一肌脱いで、家探しを手伝うことにした。ただ、私自身はずっと賃貸マンション暮らしをしており、不動産購経験はゼロ。マンション購入に関してはど素人だ。
そこで、まずは、SUUMOなどの検索サイトで物件検索をしつつ、良さげな新築マンションのモデルルームや、中古マンションの内見に行ってみようと思った。
しかし、大変な苦戦を強いられた。東京圏のマンション市場が、売り手市場で過当競争状態にあることに驚愕した。
人気の新築マンションは、そもそもモデルルームの予約が取れない。人気歌手のコンサートチケットを取る時のようなクリック合戦だ。
めぼしい中古マンションも、SUUMOを見て内見依頼の連絡を不動産業者にしたところ、既に申込みが複数件入っている等と言われ、何度も断られた。
パワーカップルのペアローン、外国人投資家(円安や母国の政情不安などに起因)、相続マネーの流入など、複数の要因があるらしい。価格も高騰の一途を辿っているようだ。
加えて、中古マンションの場合、売主側の不動産業者の両手仲介を目的とした「囲い込み」がなされているらしい。買主側で不動産業者に物件探しを依頼しても、売主側の不動産業者からブロックされることがあるというのだ。(なお、2024年9月現在、「囲い込み」については、国交省が処分対象にするよう検討を開始したとのことだ。)
通常、売主と買主の間には、圧倒的な情報格差が存在する。初めて連絡する不動産業者とやり取りしながら、短期間に、限られた情報に基づき、恐ろしい金額のお金を動かさなければならない。遠方の買主は、オンラインの内見だけで購入を決めなければならないことも、珍しくないという。
東京圏に地縁がなく、不動産売買の経験も乏しい買主にとっては、なんという過酷な状況だろうか!
これは、一筋縄では行かない。きちんとマーケットの勉強をせねば。そこで、住まいサーフィン、スムログ、などのマンションに関する情報サイトや、「マンクラ」と呼ばれるマンション有識者の方々のブログやSNSを片っ端からチェックした。調べれば調べるほど、膨大な情報が出てきた。なかなか奥が深い世界のようだ。
そのなかで、とりわけ有益で、信頼できそうなブログに出会った。
発信者は、三井健太氏という方で、マンション研究家・住宅アドバイザー。マンション業界OBであり、業界の裏側を知り尽くしているという。残念ながら2022年11月にご逝去されたとのことだが、同氏が書いたブログは2024年9月現在も残っている。とても丁寧な文章で、立場の弱い買主側の目線に立った、たくさんの有益なアドバイスを提供している。
前置きが大変長くなったが、そんな三井氏のご著書が、こちらの『マンション大全』なのだ。
初心者向けに、マンションを選ぶポイントを、分かりやすく丁寧に解説してくれている。著者のアドバイスに従えば、納得のゆく物件選びができそうだと感じた。ただ、不動産投資の知識やご経験が既にある方には、易しすぎるかもしれない。
私にとって特に有益だと思ったのは、以下の内容だった。
以下、個人的に有益と思った項目だけを箇条書きにまとめた。あくまで一部に過ぎず、それぞれの項目について、書籍では大変深い考察がなされている。ご興味のある方は、以下のまとめだけではなく、是非本書全体を通して読まれることをおすすめする。
居住性と資産性
マンションは生活の基盤であるとともに資産の側面もある。居住性のみならずリセールバリューを考えて購入すべきで、資産価値の視点が不可欠。
資産価値を左右する条件と順位
第1位:立地条件←最重要!
第2位:建物規模
第3位:外観・玄関・空間デザイン
第4位:間取りや内装、設備など専有部分、および共用部分のプラン
第5位:ブランド
第6位:管理体制
立地条件の良し悪しを測る基準
●マクロの基準
①郊外よりは都心の街・駅が望ましい
②都心直結の幹線鉄道(都心へ直接アクセスできる鉄道)の駅が望ましい(枝分かれする路線や支線は避けたい)
③各駅停車より急行停車駅が望ましい
④駅力の高い駅・街が望ましい
●ミクロの基準
①駅からの距離は徒歩5分以内が目安
②駅から徒歩10分は超えないことが重要(5分以内が理想)
③アプローチ道路は、車道より一段高くなった歩道付きが望ましい
④買い物の便
⑤学校:小学校までの距離が近くて安全なこと
⑥高台か低地かも重要な評価要素
●購入マンションを他人目線で見ることから物件を見る眼は養われる。
建物のコストダウン策
建物の品質を下げるコストダウン策には以下のようなものがあるが、マンションのコストダウン策はすでに限界に来ている。
1.設備・仕様のダウン
①スロップシンクの取り止め
②ディスポーザーの取り止め
③トイレの手洗いカウンターの取り止め
④床暖房の取り止め
⑤複層ガラスの取り止め
2.エレベーターの台数を減らす
3.鉄骨階段にする
4.駐車場を平面式にする(機械式にしない)
5.直貼り構造にする
6.間取りプランのシンプル化
①田の字型の間取り
②洗濯機置き場の囲いの取り止め
③エアコン室外機置場の露出置き(共用廊下)
④アルコーブの取り止め
⑤共用施設を削って住戸面積を増やす
価値が下がりにくいマンションの3要素
①管理・メンテナンス
②経年優化という発想
③立地条件に希少価値があること
新築か中古を決めるための比較ポイント
①価格、②価格交渉(指値が可能か)、③物件代金以外の諸費用(トータルでは中古のほうが高い)、④固定資産税、⑤修繕積立金、⑥住宅ローン、⑦住宅ローン減税、⑧建物外観・共用部のきれい度/管理状態、⑨室内のきれい度、⑩設備、⑪間取り、⑫天井高・サッシ高、⑬バリアフリー、⑭耐震性、⑮耐久性、⑯遮音性、⑰見学範囲と建物の確認、⑱取引の安全性(アフターサービス・瑕疵担保責任)、⑲検討スピード、⑳物件の詳細な内容の把握、㉑流通物件数、㉒住み心地、㉓近所付き合い
中古マンション購入の際の検討項目
①築年数と耐震性
②修繕履歴
③分譲主・施工会社
④管理会社と管理体制、管理状態
⑤管理費・修繕積立金
⑥建物規模と共用施設
⑦外観・玄関等のデザインとグレード感
⑧間取り
⑨リフォーム費用
⑩交通の便
⑪環境・眺望・日当たり
⑫品質保証
●以上を踏まえての内覧の際の観察ポイント
①ひび割れの有無を目視で探してみる
②設備機器の耐久性をチェックする
③結露の有無を調べる
④床・壁・天井の表面を全体的に点検する
●内覧とは別に、修繕履歴と修繕計画は必ずチェックする
中古マンション探しのコツ
●買い手の目利きや知識が鍵を握る。
●婚活と同じで、他人頼みでは生涯の伴侶は見つからない。方法はただひとつ、自分からポータルサイトを頻繁に覗いてチェックするしかない。
●トレーニングと決断スピードが大事。
●勉強のし過ぎで決断ができないこともある。
●百点満点はない。短所を埋める長所があればよい。問題は優先順位。
資産性以外の価値観
●マンション購入には住まう家族を幸せにする側面がある。
●人間は経済合理性だけでは行動を決めない。何を基準にして選ぶかは人それぞれ。
●好き嫌いの問題は、他人では量れない。
●マンションには経済的価値と使用価値の2つの側面があり、後者の大きさは他人には測り知れない。経済的損失を被っても使用価値が高いことで大きな精神的利益を得て余りあるなら、その選択は間違いではない。
マンション選びの原則・自戒
①駅から遠い物件(10分以上)は避ける(5分以内が理想)
②バス便のマンションは値下がりする(例外はほとんどない)
③東京都心に一直線でアクセスできる鉄道の駅がいい
④1階、2階の部屋は避けたほうがいい(例外もある)
⑤小規模マンションは避けたほうがいい(例外もある)
⑥大手は安心だが絶対ではない(中小デベにも良いものはあるが・・・)
⑦安物マンションは銭失いになる(例外はない)
⑧バルコニー方向に切迫して建物があるものは極めて売りにくい
⑨向きは気にしない(南向き信仰は根強いが、気にしない人も多い)
⑩設備の良し悪しを優先項目にしない(優先項目の一番は立地である)
⑪間取りはスパン(柱の間隔)に注意する(狭いスパンは問題個所が必ずある)
⑫マンションは住戸を買うのではなくマンション全体を買うものと心得る
⑬マンションは格好いいもの(デザイン性の高いもの)が良いと心得る
⑭大きいマンションは良いマンションである場合が多い(例外もある)
⑮売却時、見学者は感動してくれるかと他人目線で考えてみる
⑯マンション選びの優先順位は、街→建物全体→住戸と心得る
⑰供給過多は気にしない(いっときのことだから)
⑱中古も検討する(新築の数が減ってしまったから)
⑲中古は築年数に気をつける(例外もあるが、35年以内が安全)
⑳住宅ローンは今の金利なら10年経過で25%は残債が減る
**********
以上の視点を得てから、物件の検索や内見のポイントが、かなり明確に分かるようになった。実戦的なアドバイスがありがたかった。
しかし何より、一番刺さったのは、根底にある心構えについてのくだりだ。
結局のところ、資産性の高いマンションを選ぶには、他人頼みではなく、努力して物件を見る眼を養うべき。でもタイミングやスピードも大事。完璧な物件はないので、妥協することも必要。そして、資産性、経済合理性も考慮すべきだが、最後は自分の価値観に従って決断すべき、ということだと受け止めた。
これは、何もマンション購入に限った話ではない。進学先選び、就活、婚活など、人生において重要な決断を行う際に、いつも必要となる心構えだ。
だが、とりわけ自己居住用のマンション購入は、多くの人や家族にとって、一世一代の大きな買い物。いったん購入してしまうと、その先長い間そこで生活を送ることになる。しっかり向き合って取り組まなければ、大きな後悔を残すかもしれない。
友人のおかげで、マンション購入という未知の世界に触れ、本書のような良書に出会うことができた。最初は膨大な情報の波に溺れて辟易していたが、本書を読んでからは、物件探しのコツがつかめ、内見に行って不動産業者に質問したりするなかで、マンションについてのリテラシーが上がってきたと感じる。最初はやや面倒だった住まい探しのお手伝いだが、今では自分のことのように楽しくなってきている。
友人のマンション探しの旅は、まだしばらく続きそうだ。一緒に勉強しながら、楽しみながら進んでいきたい。
ご参考になれば幸いです!
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