今日ご紹介する本は、トニ・モリスン(Toni Morrison)の小説『青い眼がほしい』(原題は "The Bluest Eye" )。私が読んだのは、ハヤカワepi文庫版(大社淑子訳)。
トニ・モリスンは、ノーベル賞作家。アフリカ系アメリカ人の女性作家としては初めての受賞だったという。この作品『青い眼がほしい』は、そんな彼女のデビュー作。1970年の作品だが、広く世界で読まれるようになるには、25年もの長い期間がかかった。
この作品の舞台は、1930年代のアメリカ中西部。主人公は黒人の少女、ピコーラ。黒人差別の時代に彼女を襲った悲劇と彼女の悲惨な人生についての物語だ。しかし、この作品は、白人対黒人という単純な構図を超越して、さまざまな問題を浮き彫りにする。社会に植え付けられた差別的価値観がもたらす、集団心理。それに影響される人間の、嫉妬、優越感、劣等感、嫌悪感といった、醜い感情。そんな感情に突き動かされての、残酷な言動。それがさらに他人やコミュニティに及ぼす影響。
以下、私の特に印象に残ったくだりを引用しておく(ネタバレにはご注意ください。)。
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主たる語り手のクローディアは、黒人の少女。子どもの目を通して語られる出来事の描写は、あまりに生々しく、痛ましい。
自分が周りから愛されないのは、美しいと評価される白人が持つ「青い眼」がないからだ、という少女の思い込み。原題の "The Bluest Eye" を直訳すると「最も青い眼」だ。眼が青ければ青いほど美しいと考えた少女の、この "Bluest" という一語に込められた強い羨望を思うと、やるせなくなる。
そして、黒人同士の間でも、優劣をつけようとする発想。他人が自分よりも劣っていると考えることによって、自分自身の存在価値を見出そうとする子供たち。なんと悲しく、愚かなことだろうか。
現在の私たちにも、こういった心の動きがないと断言できるだろうか。世間が良しとする基準から外れているという理由で、自分を価値のない人間だと思ったりしていないだろうか。自分に自信を持ちたいために、無意識のうちに、自分より劣った他人を探し、差別的な眼を向ける誘惑に屈してはいないだろうか。そして、集団において差別的な意識を黙認したり、差別的な言動に加担したりしてはいないだろうか。
なんとも強烈で衝撃的な作品だが、人間の性を知るために、全ての人に勧めたい本だ。
ご参考になれば幸いです!
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