【読書録】『老後の家がありません』元沢賀南子
今日ご紹介する本は、元沢賀南子『老後の家がありません』(2024年、中央公論新社)。副題は『シングル女子は定年後どこに住む?』。
著者は、57歳独身女性という属性の、フリーランスのライター・編集者。この本は、そんな著者が、「最後から2番目の家」(=高齢者施設や病院を「人生最後の住まい」だとすると、その前の健康寿命の間を過ごす家のこと、p9)を探すため、「体を張って試行錯誤しながら」(p11)検討したことを、読み物としてまとめた本だ。
ネットで話題だったことから、読んでみた。私はシングル女子ではなく、夫がいるが、子供はいない。将来、夫が先立ってしまった場合には、ひとりになる。現在、夫も私も不動産は所有しておらず、ずっと賃貸暮らし。アラフィフになり、いつかは終の棲家を確保しなければならないと、漠然と思っていた。そういう状況で本書を読んだ。
読みやすくて、するすると一気に読んだ。その結果、得るものが多く、大いに参考になった。
この本の良いのは、よくある「賃貸 VS 購入」という単純な二択の議論を行うのではなく、それ以外の幅広い選択肢を示しているところだ。
たとえば、賃貸であれば、民間賃貸のみならずUR賃貸についても紹介する。分譲マンションの購入については、間取りなどが予め決められている普通のマンションのみならず、それぞれの部屋をオーナーが自由に設計できる「コーポラティブハウス」についても紹介する。資金計画については、普通の住宅ローンのみならず、「リ・バース60」というリバースモーゲージ(不動産担保ローン)についても紹介する。さらには、地方へのお試し移住、シェアハウスから「お泊りサブスク」まで、住まいの新しい選択肢を示している。そして、すべての選択肢について、しっかりと調査、検討をした結果を、わかりやすくまとめてくれている。
さらに、有益な情報も満載だ。たとえば、事故物件情報サイト「大島てる」というホームページの存在は、自力ではとても発見できなかっただろう。
また、物件の検討の過程で、自分にとって譲れない条件を書き出して可視化し、候補となる物件を、複数の観点から比較する一覧チャートを作っているというくだりが、とても参考になった。
譲れない条件を比較せよ、というのはよく言われることだが、15以上の観点から複数の物件を比較する具体例をチャートで図示しているのが分かりやすかった。著者は占いを利用される方で、占いの結果や、「大きな病院が離れている」「近くに川がない」「近くに墓/寺がない」なども重要検討項目に挙がっている。
これは、自分の重要視する観点を漏らさず検討するために有用な方法だ。住居選びにかかわらず、人生で大きな決断をする際、たとえば、進学、転職先、治療方法などを選択する意思決定をすべきときに威力を発揮しそうだ。これから真似させていただこう。
また、印象に残ったのが、著者の相談したファイナンシャルプランナーさんの言葉だった。
この話を読んで、以前記事にした本『DIE WITH ZERO』のメッセージ(「ゼロで死ね」というもの)を改めて思い出した。
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この本を読んで、少し気が楽になった。柔軟に考えれば、かなりの選択肢があるのだから、焦らなくても良いのだと、老後の不安が少し和らいだようだ。私のように老後の住まいの探し方に不安を感じている方には、本書はおすすめだ。
おそらく私も、そう遠くないうちに、「最後から2番目の家」を探さなければならなくなる。本書はその重大な意思決定のための、有益なヒントをくれた。老後の住まいの手配は、賃貸であれ購入であれ、大きな買い物になるに違いないが、「DIE WITH ZERO」の観点から、頑張って稼いできたお金をしっかり使って、幸せになるための良い選択をしたい。
ご参考になれば幸いです!
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