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【読書録】『天才たちの日課』メイソン・カリー

今日ご紹介する本は、メイソン・カリー(Mason Currey)氏の『天才たちの日課』(フィルムアート社、2024年)。 

副題は『クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々』。英語の原題は、"DAIRY RITUALS: How Artists Work"。訳は、金原瑞人氏、石田文子氏。

本書は、古今東西の天才たち161人の日課やルーティンをコンパクトにまとめたショートショート的なエッセイだ。本書で取り上げた天才たちは、作家や作曲家、芸術家、研究者、映画監督などと幅広い。著者のメイソン・カリー氏が、個人で運営していたブログに天才のルーティンをアップしていたそうで、その内容をまとめて本書を上梓したという。

天才たちの1日のスケジュールや、ルーティンを1冊にまとめて紹介しているということあり、好奇心をそそられ、読んでみた。

その結果、とても楽しめた!

まず、何といっても、軽い読み物で、サクッと手軽に読めるのが良い。一人ひとりの紹介文はせいぜい数ページなので、疲れているときでも、どこからでも読めるし、途中でやめても問題なし。自分の好きな偉人だけを選んでつまみ食いするも良し。気分転換や暇つぶしにピッタリだ。

そして、読み物として、面白い。天才たちの日課やルーティンは、バラエティに富んでいる。朝型のほうが多いが、夜型のタイプの天才もいる。規則的な生活を送っているタイプが多いが、不規則なタイプも。睡眠も、ロングスリーパーも、ショートスリーパーもいる。気分転換方法も、散歩、友人や恋人との交流、音楽など、さまざま。嗜好品も、コーヒー、紅茶、ワイン、タバコのほか、覚せい剤の成分である、アンフェタミン、というものまであった。

Amazon.com上のこの本の紹介ページには、「天才たちの創作時間」として、以下のチャートが貼ってあった。これを見ると、午前6時から正午までの朝方を創作や研究に当てている天才たちが多いといえそうだ。

Amazon.comの商品紹介ページより

また、出版社の本の紹介ページには、このようなエピソードが抜粋されている。

◆ヘミングウェイは毎日書いた語数を記録していた
◆フロイトの散歩はたいへんなスピードだった
◆バルザックは午前1時に起床しすぐに仕事をした
◆ストラヴィンスキーは作曲に行き詰まると倒立をした
◆マルクスには金銭管理能力がなかった
◆ピカソはアトリエでたくさんのペットを飼っていた

https://www.filmart.co.jp/books/978-4-8459-1433-3/

私が個人的に気に入ったのは、次のようなエピソードだ(なお、noteで記事を書いたことのある作家についてはリンクも貼っています。)。

パトリシア・ハイスミス(作家)(p30)

イングランドの庭で300匹のカタツムリを飼っていた。あるパーティーには、レタス1個と100匹のカタツムリを入れた巨大なハンドバッグをもって現れた。フランスに引っ越すときは、カタツムリの持ち込みが禁止されていたので、6~10匹のカタツムリを左右の乳房の下に隠して何度も国境を往復した。

ルートヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェン(作曲家)(p41)

変わった手洗いの習慣があった。洗面台の前で大きな水差しから手に水をかけ、大声で歌う。しょっちゅう大量の水をこぼして床下にまで水がもれ、家主と衝突していた。

村上春樹(作家)(p97) 

日本人で唯一収録されている。朝4時起床、午前ぶっとおしで仕事をし、午後はランニングや水泳、読書や音楽に触れ、夜9時に寝る。繰り返すこと自体が重要で、自分に催眠術をかけて、より深い精神状態にもっていくとのこと。タバコはやめ、酒の量も減らし、野菜と魚中心の食事をする。

トニ・モリスン(作家)(p99)

9時から5時まで勤めに出ていた。夜の時間に集中的に書くため、アイデアを練るのは、通勤で車を運転しているとき、地下鉄のなか、芝を刈っているときなど。書くために机に向かったら、考え込んだりしなかった。

アガサ・クリスティー(作家)(p160)

本を10冊書いたあとでも、自分をプロの作家とは思わず、職業欄には「主婦」と書いていた。自分の部屋もなく、寝室の洗面化粧台や食事の合間の食卓で執筆していた。

サマセット・モーム(作家)(p161)

「モームにとって書くことは飲酒と同じで、はまりやすく、抜けるのが難しい習慣だった」「それは職業というより中毒だった」。生涯78冊の本を出し、書きたいと思う最初の文と次の文を、バスタブにつかりながら考えていた。

イーディス・シットウェル(詩人・批評家)(p225) 

「女はみんな、週1日はベッドで過ごすべきよ」との言葉。仕事に熱中しているときは午前中も午後もずっとベッドで過ごし、本人の言葉によると、しまいには、「疲れ切って、ベッドの上で口を開けて横になることしかできなくなってしまう」とのこと。

ジョージ・オーウェル(作家)(p301)

執筆だけでは生計を立てられず、ロンドンの古本屋でアルバイトをしていた。遅い時間には、独身男性でも料理ができるという<バチェラー・グリラー>と呼ばれる小さなガスコンロで料理をしていた。

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この本を読んで良かったのは、偉大な人たちをとても身近に感じられたことだ。天才たちも、生身の人間で、1日は24時間しかなかったこと。悩んだり、孤独と戦ったりしながら、創作と向き合っていたこと。規則正しいタイプのみならず、割とマイペースな生活を送っていた天才もいたこと。そういう人間らしさを垣間見て、大いに親しみを覚えた。また、自分と比べるのはおこがましいとは分かりつつも、弱みがいっぱいの自分も、もしかしたら頑張れるかもしれない、と、元気をもらえたりした。

ところで、本書のスタイルを真似して、身近な人たちの習慣をエッセイ風にまとめてみるのも面白いかもしれない。例えば、勤務先の部署やサークルなどのグループで、所属メンバーのルーティンをまとめてみるのも、チームビルディングのアイデアとして使えるのではないか。そのうち、トライしてみようかな。

あなたは、どの天才のルーティンに魅かれるだろうか?

ご参考になれば幸いです!

私の読書録の記事へは、以下のリンク集からどうぞ!

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サザヱ
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