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【読書録】『777(トリプルセブン)』伊坂幸太郎

今日ご紹介する本は、伊坂幸太郎の長編小説『777(トリプルセブン)』

ベストセラー作家である伊坂幸太郎の、痛快殺し屋アクション小説。いわゆる「殺し屋シリーズ」の4作目。同シリーズ過去作品には、『グラスホッパー』『マリアビートル』『AX(アックス)』がある。

(以下、ネタバレご注意ください。)

舞台は、地上20階建ての大型ホテル、ウィントンパレスホテル。このホテルに、殺し屋、死体処理屋、逃し屋、などの裏家業の登場人物が現れ、ハチャメチャで、スリリングなドタバタ劇が続く。人がまあたくさん死ぬのだが、軽いタッチで描かれていて、勧善懲悪的なエンタメ小説になっている。何も考えたくないときに、スカッと気分転換したいときに、エンタメとして楽しめる作品だ。

「いったいどうなってるの、このホテル。死体だらけ」

そして、本作品では、登場人物による会話を通じて、他人と比較することを強いる世の中の風潮と、それによる不幸について言及がなされている。本作品で作者が伝えたかったテーマなのだろうか。

「人間って、他人よりも上位に行くために頑張る生き物だと思うんだよね。それを利用しているというか、助長させているのが、資本主義だよ。おしゃれな服も、立派な家も、うっとりされる外見とか、背の高さ、胸の大きさ、とにかく優越感と劣等感のための商品とかサービスばかりでしょ。だから、『恋人がいないなんて!』とからかわれちゃうのも、もとを辿れば、資本主義が目を光らせているせいかも。あいつをき立てて、早く、金を使わせないと、って」

p83

「梅の木が、隣のリンゴの木を気にしてどうするんだよ」(中略)「梅は梅になればいい。リンゴはリンゴになればいい。バラの花と比べてどうする」

p176

「他人と比べた時点で、不幸は始まりますね」

p197

なお、ストーリー上、ところどころ暴力の描写もある。冷酷非道でドギツいと感じた箇所もあった。他人の不幸を喜ぶタイプの人間に気を付けろと警鐘を鳴らしているのかもしれないが、こういう描写が苦手な方もいるだろう。例えば以下のようなくだり。気になる方は、ご注意を。

「あいつは人を、魚を下ろすみたいに、解体するのが趣味らしい(・・・)」

p55

(・・・)人の苦痛に歓びを感じる人間がいることが、受け入れがたく、同時に、乾の恐ろしい話のことも考えずにはいられなかった。どちらも「他者の不幸」が自分の人生とは関係がなく、そればかりか、快楽の源として確信している点では共通していた。

p102

「(・・・)やり返さないと気が済まない。動かなくしたうえで、顔面に熱湯をたっぷり注いであげたい。それくらいしないと」

p171

「(・・・)無抵抗の他人を蹂躙じゅうりんするのは、人生の悦びの一つひとつだと思います」

p247。

ところで、本作品は、ホテルという逃げ場のない空間が舞台だが、伊坂作品の殺し屋シリーズの過去作のうち、『マリアビートル』と設定が似ている。『マリアビートル』は、東京から盛岡に向かって高速で疾走する東北新幹線の車内が舞台。こちらも大変スリリングなエンタメ小説だ。『777』でも『マリアビートル』のストーリーが所々で言及されているので、『777』よりも先に読んでおくと、より一層楽しめるだろう。

ちなみに、この『マリアビートル』は、ブラッドピット主演のハリウッド映画『ブレット・トレイン』の原作になっている。原作からはものすごくデフォルメされていて、たとえば、舞台は東京から京都に向かう超高速列車という設定で、現実の東海道新幹線「のぞみ」とは全然テイストの違う列車になっている。ド派手な演出で、ハリウッドが解釈するとこうなるのか・・・と、大変興味深かった。

ページを開いた瞬間から始まる、とにかく痛快な伊坂ワールド。手に汗握るドキドキハラハラのストーリーでスカッとしたい方に、特におススメだ。

ご参考になれば幸いです!

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サザヱ
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