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ESTNATIONのCRM戦略 - 店舗とデジタルを融合した老舗セレクトショップの変革への挑戦

数々のファッションやライフスタイルブランドを展開するサザビーリーグ。今回は「ESSENCEOFLUXURY」のコンセプトの元、ラグジュアリーの本質を追及したアイテムを展開するESTNATIONのCRMについて解説。同ブランドで長年店舗販売を経験し、2022年よりCRM業務を担当する岡本さんにお話を伺いました。

岡本 泰弘(おかもと やすひろ)
2001年5月にESTNATIONに入社。有楽町店で5年、六本木店で約7年と東京の主要店舗で経験を積む。その後、名古屋店での勤務を経て、2022年4月に東京のセントラル店(旧銀座店)に異動。同年6月からは新たなキャリアステップとしてマーケティング部門でCRMを担当。約21年間、販売からマーケティングまで、ESTNATIONでキャリアを重ねている。

▼ESTNATION ONLINE STORE
https://www.estnation.co.jp/women

ESSENCEOFLUXURYが示すブランド価値

──店舗勤務が長かった岡本さんですが、CRMやマーケティングは元々興味のある分野だったのでしょうか?

実を言うとあまりそういうわけではありませんでした(笑)。ずっとESTNATION(エストネーション)の店舗業務が中心だったのですが、ECの業績向上が課題となっていた時期に、新しい分野にチャレンジする機会をいただきました。デジタルの側面ですと、それまでは店頭でカスタマーリングスという顧客カルテのツールを使い顧客情報の蓄積や管理を行っていた程度でした。

──ESTNATIONがどんなブランドなのか教えてください。

ESTNATIONは「ESSENCEOFLUXURY(エッセンスオブラグジュアリー)」というブランドコンセプトを掲げています。一般的にあるラグジュアリーは高額で煌びやかなイメージがあると思いますが、ESTNATIONが考えるラグジュアリーは人の中にある本当の心の豊かさを示しています。人それぞれにラグジュアリーという形があって、精神的な豊かさを追求するものを私たちはラグジュアリーと定義しています。ESSENCE OF(エッセンスオブ)という表現がついているのは、より優れたものを幅広く提供していきたいというブランドの想いを伝えるものです。

──どんなアイテムを展開していますか?

社会性のある方々、例えば人前に立つ機会の多い方々に向けて、カジュアルすぎず、フォーマルすぎない、絶妙なバランスの取れたファッションアイテムを提供することを心がけています。ファッションを通じて、キャリアや日々の生活の中でのお客様の自己表現をサポートする、そういった役割を担っていると感じながら日々の業務に取り組んでいます。

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顧客層の変化とデジタル化への対応

──顧客層についてもう少し詳しく教えてください。

ESTNATIONは40代を中心としながら、最近では30代の方々の取り込みも強化しています。男女比では女性が6.5割から7割を占めています。実店舗とECでは、年間購買額の高い上位顧客は店頭での購入が中心ですが、最近ではECを見て店頭に来店されるお客様や、店舗からの案内でECでご購入いただくケースも増えてきています。

──店舗の存在感が強いブランドかと思いますが、デジタルの重要性はどのように感じていますか?

他のブランドと同様にデジタル活用については、特にコロナ禍において大きな課題に直面しました。当社のお客様は比較的年齢層が高く、LINEなどのデジタルツールの活用には慎重にならざるを得ませんでした。しかし、時代や環境の変化に応じて、アナログからデジタルへの転換を進める必要性を店頭に立っていながらも強く感じていました。私個人としては、長年店舗営業に携わっている中で、デジタルをうまく活用することで店舗の強みを生かしたブランド運営やよりお客様に寄り添える接客ができると考えていました。

DX推進室との協働で始まったLINE STAFF START

──DX推進室との業務はどのように始まったのでしょうか?

私がCRM部門に異動する前より、DX推進室とESTNATIONの間には支援関係があったようですが、私個人としては2022年6月にセントラル店(旧銀座点)の研修で初めてDX推進室と関わりを持ちました。当時入社したばかりだったDX推進室の代田さんが伴走支援をしてくれる形で、LINE STAFF START*の導入がちょうど始まったタイミングでした。

LINE STAFF START*
株式会社バニッシュ・スタンダードが提供するOMOサービス。店舗スタッフがLINEの友だち追加をした顧客に、ダイレクトまたは一斉に商品やコーディネートの紹介、キャンペーンの告知などをLINEメッセージやLIVEで簡単に行うことができる。

──LINE STAFF STARTの導入にはどんな狙いがあったのでしょうか?

LINE公式アカウントを通して、店舗スタッフとお客様が直接つながれる仕組みを作りましょう、という説明がありました。店舗を起点にお客様とデジタルの接点を多く作り、来店時以外にもお客様とより深くつながる接客体験を作るという狙いがありました。

──導入はスムーズでしたか?

最初は私自身も戸惑いがありましたが、コロナ禍を経て店舗を縮小する動きもあったため、試験的に何名かのお客様を登録してみました。ただ正直なところ最初はほとんど活用できていない状況でした。当時はまだ個人でつながっているお客様もいたため、会社で指示されたツールををあまり活用する意識がなかったのかもしれません。

当然OMOなどの言葉も知らなかったですし、ECの理解も浅かったので、今では当たり前になっている「お客様をECサイトに誘導してECで買っていただく」ということは全く考えもつかなかったという状況でした。

──その後、どのようにしてLINE STAFF STARTの活用が進んでいったのでしょうか?

代田さんをはじめ、DX推進室の手厚いサポートが非常に心強かったです。私自身、40代で店舗経験が長かったため、デジタルツールの操作にも不慣れでした。そんな中、ESTNATIONの公式LINEアカウントの本格始動にあたり、友達登録促進を狙ったクーポン配布キャンペーンをLINEで実施することになりました。その時は代田さんが一日かけてクーポンコードの発行や細かな設定を行ってくださりとても頼もしい限りでした。

ESTNATION 公式LINEアカウント

ブランド軸から顧客軸へ- 顧客のステージに合わせた施策を展開

──現在のCRM戦略について教えてください。

主に2つの重要指標を軸に展開しています。1つはF2転換(再購入率促進)、もう1つは店舗とECのクロスユースです。これらの指標を月次で追跡し、それに基づいた施策を展開しています。

特筆すべきは、従来の商品軸やブランド軸中心の分析から、顧客軸への分析へと転換を図っている点です。以前は売上の徴表分析が中心でしたが、現在では顧客のステージごとの購買動向を分析し、それぞれのステージに適した施策を検討しています。

今後は、DX推進室と協働してカスタマージャーニーマップを作成し、より戦略的なアプローチを展開していく予定です。現在、バラバラに実施されているCRM施策を、顧客軸で統合し、商品軸、販売施策軸を含めた包括的な戦略として展開していくことを目指しています。

──具体的な顧客コミュニケーションについて、現在どんな取り組みをしていますか?

私のCRM業務では、メールマガジンのセグメント設定を担当しています。ESTNATIONでは、Cuenote(キューノート)とKarte(カルテ)という2つのCRMツールを使用していますが、私はCuenoteを使用して会員全体や男女別などの基本的なセグメント分けを行っています。

CRMにおいては、以前は単なる顧客情報の蓄積が中心でしたが、現在では顧客の購買行動やステージに応じた細かな分析が可能になってきています。特に、指標会議では各ステージの顧客がどのような商品を購入しているかといった具体的な議論ができるようになりました。

ESTNATIONらしさを活かしながら、グループ全体で成長 - 事業部横断プロジェクトの可能性

──DX推進室との今までの協働をどのように評価されていますか?

サザビーリーグという同じグループに属していることの強みを非常に感じています。外部ベンダーと違い、ブランドの本質的な理解がある点が大きな違いです。他のベンダーは依頼された作業をこなすだけですが、DX推進室は私たちの価値観を理解した上で、最適なシステムや施策の提案をしてくれます。

また、グループ内の他ブランドの事例を共有いただける点も大きな利点です。実際にそういった情報が新しいプロジェクトを検討する際の参考になっています。

──今後のDX推進室の支援について、どのようなことを期待されていますか?

理想としては、DX推進室と我々のようなブランド運営事業部がより一体となって活動できる体制を作りたいと考えています。今年の4月からESTNATIONがサザビーリーグのグループ内で分社化されたことにより若干の距離感が生まれた面もありますが、それを逆手に取って、より革新的なプロジェクトを展開できればと思います。

例えば、SNSでのブランド間でのコラボレーションなど、会社や事業部を横断する取り組みも検討できるのではないでしょうか。各事業部で予算を出し合い、大きなビジョンを達成するような「共同プロジェクト」のような動きができれば、より大きな相乗効果が期待できます。

──最後に、ESTNATIONが目指す今後の展望について教えてください。

私たちは単なるデジタル化ではなく、ESTNATIONらしい価値提供のあり方を追求していきたいと考えています。基本は冒頭で説明した通り、社会で活躍されるお客様に寄り添い、その方々の自己表現をファッションを通じてサポートしていくことです。そのためのツールとしてデジタルを活用していきたいと思います。

それからサザビーリーグというグループの強みを活かしながら、各ブランドの個性も大切にしつつ、横串でのプロジェクト展開もいつか実現させたいですね。そうすることで、ESTNATION単体ではなく、サザビーリーグ グループ全体で、大切なお客様により大きな価値を提供できると考えています。

最後までお読みいただきありがとうございました!