【試し読み】瀬尾浩二郎『メタフィジカルデザイン —つくりながら哲学する—』「はじめに」
2024年9月20日より、哲学カルチャーマガジン『ニューQ』編集長の瀬尾浩二郎さん初の書籍『メタフィジカルデザイン —つくりながら哲学する—』を発売いたします。
刊行を記念して、本書の『はじめに』を無料公開いたします。
何かを「つくること」と「哲学すること」。はたして、この二つの間には、どのような関係があるのでしょうか。
また、その二つをつなぐ何かがあるとしたら、一体どのようなものなのか。もしくは、視点をぐっと遠くへ移動させて「つくること」と「哲学すること」を俯瞰して、一つの視野に収めると、その営みはどのように見えるのか。
この本をとおして、これらの問いに対する私なりの見解を示してみたいと思います。
期待を先に述べてしまうと、何かをつくるにあたって、哲学することはなんとなく役に立ちそうな気がしてしまうのです(そう感じるのは、私だけでしょうか?)。
でも、そのように期待して哲学者が書いた本を読んでみても、何かヒントを得たような気がするだけで、実際に手を動かすとなると具体的にどうすればよいのか分からない。もしかすると、この本を手に取った人の中には、同じような経験をした人がいるかもしれません。
タイトルにある「メタフィジカルデザイン」とは、私の会社がつくり出した造語——概念——で、「つくりながら哲学すること」、もしくは「哲学しながらつくること」をデザイン実践の一つとして捉えようとするものです。
この本を別の言葉で説明すると「つくるための哲学入門」と表現することができます。哲学する上で重要な、物事を考え進めていくための「問い」と、考えたことを整理し定義するための「概念」を主な道具として紹介します。
また、ここで言う「つくること」とは、座りやすい椅子や、コンピューターのプログラム、アート作品といった具体的なものから、社会における制度、理念、より抽象的な概念といったものまで——つまり、「つくった」と言えるものならなんでも——を対象としています。
さらに、もう一つ本書に別のタイトルをつけてみると「哲学すること——哲学の実践——の手引き書」とすることもできそうです。私は、生活や仕事といった日常の中で気になる問いを見つけ、哲学していくことは、最終的に私達の手の中から新しい社会をつくっていくことにつながると考えています。そう考えた上で、社会をとおしてどのように哲学することができるのか。もしくは、社会をとおして哲学するとはどういうことなのか。この問いに対しても、最後に一つの回答を示してみたいと思います。
第一章では、哲学することの入門として「問いの立て方」を紹介します。生活や仕事の中で気になることから哲学しようと思ったとき、きっかけとなる問いをどのように見つけていくことができるのでしょうか。
また、哲学的な問いと哲学的ではない問いの違いとはどのようなものなのでしょうか。簡単なレッスンを挟みながら、そもそも「問いとは何か?」についても、考えてみたいと思います。
第二章では、哲学研究において近年注目を集めるようになった概念工学——私なりの理解によれば、概念のデザイン——を紹介します。概念は私達が物事を認識するためのツールです。もし今使っている概念に問題があれば、それを修正する必要があるでしょう(概念は人がつくったものなので、人の手で修正することもできるはずです)。
また、必要な概念がまだなければ、新しく考えることもできます。概念工学ではこのような概念の改良や新しい概念のつくり方を検討します。
第三章では、「つくりながら哲学すること」、または「哲学しながらつくること」をデザインの枠組みから捉え、「メタフィジカルデザイン」という概念の提案を行います。哲学とデザインの関係をひもときながら、発想することと哲学することの違い、そして「社会をとおして哲学すること」とは、どのようなことかまで考えを深めます。
私が経営する会社では、デザインや編集を行う際に哲学的に考えていくことを重視し、実践しています。
また、哲学的に考えることを生かして、組織の理念を考えたり、哲学するための実験的なワークショップを開くこともあります。この本には、そのような活動をとおして考えてきたことや、具体的に哲学するための事例や方法もまとめています。
より具体的なイメージを描けるよう、各章の冒頭で、私の会社がそれぞれのテーマに取り組むに至った経緯や、実践したこと、そして考えていること——または取り組んでいる問い——についても紹介していきます。また、組織の中で哲学的に考えることを実践できるように、ワークショップのレシピや実践例も載せています。
この本は、哲学してみたいと思った人、何かをつくろうとしている人、そしてその中で探究していこうとする人達のことを考えながら書いてみました。皆さんの活動において、何らかのヒントになれば、とてもうれしいです。