映画『グッドバイ、バッドマガジンズ』の感想

なんとかして観に行こうと思っていた『グッドバイ、バッドマガジンズ』を観てきた。
https://www.gbbm-movie.com/
楽しみにしていただけに自分の中で期待値を上げすぎたのか、個人的に強くは褒めにくい映画だと感じた。けど考え始めたら結構止まらなかったので書く。

「編集者に憧れて版元に入社するが、エロ雑誌の編集部に突っ込まれてしまう」というのは自分も同じ2018年春に経験したことであるが(自分の場合はエロ漫画だし、好きでやってたのだけど)、オリンピックのための自主規制で業界が揺れていたことを覚えている。
そんな状況下での編集者の奮闘・葛藤を描いたエンタメ作品だと勝手に想像していたのだが、思っていたものとは少し違っていた。本作はそもそもエンタメではなく、言ってみれば「出版業界最下層ノワール」とでも表現した方がよい作品だった。
元ネタになった事象もあるという徹底した取材の成果か、エロ雑誌自体が既に斜陽、いや落陽産業状態となっている時代に生きる登場人物それぞれに強い存在感(実在感?)があった。自分は終始苦い顔をしながら観ていたのだが、観る者の感情に訴えることができているという意味では良い作品だったように思う。
一方で、全体的な内容には落ち着きのなさを感じた。制作から販売流通、さらに主要メンバーの退職などの七転八倒をデフォルメして描写しようという狙いはよく伝わったのだけど、仕事を広くかつ喜劇的要素をを交えて描こうとした結果、全体的にそれぞれのセクションが抱える問題が薄まっている印象を受けた。
もっとも、そんな問題すらも提起する必要がないほど「終わっている業界」ではあるので、もはや仕事自体の描写が必要ないのでは、と言われてしまうとそうなのだが…。

主人公は2年間働き、最終的には退職することになる。その際に社長から「この仕事ができれば何でもできる」と言われるのだけど、彼女以前に辞めていった人が誰一人として報われていないのも変に現実的だった。
少なくとも酒本くん(人の仕事を代わった結果大ポカをやらかしてしまう、気のいいデブ)は動画編集あたりの現場で元気に働いていてほしかった。
実際問題、エロ本の仕事ができる人は結構なんでもできるイメージはあるが、そのまま更に(具体的には言わないが)底辺と呼ばれる仕事に流れていく人も多いという。

仕事を描いた作品としてはそれほど悪くなかったように思うが、冒頭に書いた「褒めにくい」というのは、作品全体のテーマ設定、疑問の提示、それに対する結論に対してのものである。
物語は最後に「エロ雑誌が表に出ることはほとんど無くなったが、それでも需要はある」という旨の語りで終わるのだが、主人公が作中で問い続けたのは「人はなぜセックスをするか」であった。問いに対する答えになっていない…というよりも、おそらく問い方が悪いのではないかと思う。この主人公の問いは、作中に登場する元AV女優のライターの考え方やセックスレスの最中にある会社の先輩によって、ある程度の回答を得ているが、生殖行為とそれを鑑賞する行為(に伴うオナニー)は近しいが異なるものじゃないか、というのが自分の考えである。
物語における彼ら(エロ雑誌を製作する人々)の状況にに当てはめるのならば、提示されるべき疑問は「なぜこの業界で生きているのか」「なぜ他人のセックスが見たいのか」になるべきだと思われるが、「なぜセックスをするか」については、突如エロ業界で生きることになってしまった主人公のみ(他の人物がそうでないとは言い切れないが)、あるいは業界とは縁のない観客に対して投げかけられた問いなのかもしれない。

繰り返すが、ラストの語りは主人公の持つ問いに対する回答になっていない。それゆえに気分的にスッキリとはしなかったが、そもそもこの業界を扱った作品で気分を良くしてしまうのもなんだか申し訳ない感じがするので、これはこれで良かったのだろう、と思う。

一概に面白かったと言えるものではなかったけど、観た後にじっくり考えるための要素は十分にある作品だったと思う。あと酒本くんと飲んでみたい。

おわりです。

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