[小児科医ママが解説] おうちで健診:ご自宅でできる聴覚のチェックリスト。受診の目安。
「教えて!ドクター プロジェクト」の「乳幼児健診を知ろう!」にそって、解説させていただいている「おうちで健診」シリーズ。
前回は、新生児のときの聴覚検査が大事なこと。
その後も、ひきつづき健診などで、音の聞こえをチェックしていくことが大事なこと。
聴覚に影響がでる原因について。
こんなことを見てきました。
今回は、ご自宅でできる聴覚のチェックリストや、その解釈。また受診の目安について、ご説明していきたいと思います。
主な参考文献はこちら。
自宅でできる聴覚のチェックリスト(田中・進藤式)
産まれたときの検査が大丈夫でも、その後、徐々に聞こえが悪くなっている可能性があることを、前回の記事でみてきました。
なんとなーく、音はちゃんと聞こえていそうな感じがする。けど、なんか自宅でもちゃんとチェックする方法ないの?と思うのが親心。
そこで日本の健診では以下を参考にしています。
たとえば生後4ヶ月ころにこのチェックリストをつけてみた場合は、生後3ヶ月以後くらいの項目に、いくつか「○」がついてくるのが正常です。
なお0~2ヶ月の項目のうちとくに、(音にびっくりして手足が広がるように動く)モロー反射の項目は、生後4ヶ月をこえてくると×になるのは正常です。モロー反射は、生後4ヶ月ころに徐々に消えてくるからです。
チェックリストの注意
①個人差が大きい。
②必ずしも「○=聞こえる」「×=聞こえていない」ではない。
ただしチェックリストを使う際に、注意いただきたい点が2つあります。
①個人差が大きい
発達については何でもいえますが、個人差が大きい項目も多々ふくまれています。
たとえば“「~~ちょうだい」というと、そのものを手渡す”というのも、チェックリストでは「11ヶ月頃」になっています。
が、実際は1歳をこえてしばらくしてからできるようになるお子さんもいますし、このお子さんたちが「耳が聞こえていない」わけではないです。
単純に、「ちょうだい」の社会的な意味・自分に求められている行動がわかっているかどうか、という発達段階の個人差なんですね。
ほかの発達も大幅に遅れているというのでなければ、一時的にどこかの項目が「×」だからという理由だけで、聴力の異常はうたがえません。
②必ずしも「○=聞こえる」「×=聞こえていない」ではない
①ともかぶる点ですが、このチェックリストは必ずしも聴力だけではなく、精神発達もまざったスクリーニングになっているということです。
つまり(1)「項目に○がついている=聴力が正常」というわけでは必ずしもないですし、逆に(2)「項目に×がつく=聴力がおかしい」というわけでは必ずしもないのです。具体的に見てみましょう。
(1)「項目に○がついている=聴力が正常」というわけでは必ずしもない。顔色を読むなどという精神発達でカバーしている結果、難聴でも「○」がつくこともある。
1歳4ヶ月~2歳4ヶ月の難聴のお子さんでも、このチェックリストのうち、何らかの項目に「○」がつくお子さんは60%近くいるというデータがあります(聴覚発達検査 (田中・進藤) による難聴幼児と精神発達遅滞児の聴性反応の比較)
とくに以下のように、聴覚だけでなく、視覚も関与するような項目で「○」がつくことが多かったようです。
これらはたしかに、周りの怒った顔やビックリする様子、手をたたきながら歌を歌う動作や、「ちょうだい」と手を差し出すジェスチャーなど、声を出す以外にもたくさんの要素が一緒になって、赤ちゃんに届きます。
難聴の赤ちゃんとしては「まぁ何しゃべってるかよくわからんが、ママがこっちに手を出してきてるから、これ欲しいんかな」というような解釈で、自分のモノをママに渡している、というニュアンスになるんですね。
逆に以下のように「音だけ(聴覚だけ)」が手がかりになる反応については、難聴のお子さんで「×」になることが多かったようです。
周りの人のジェスチャーなどが全くない状態で、音がなったときに振り向けるかは、完全に聴覚に依存した項目です。
目・耳・口などの体の部位も、「これがお目めだよ~」などと言っているのを聞き、同時にジェスチャーなどを見ながら学んでいきますが、「目・耳・口」などのワードが聴覚としてインプットされない限りは、認識できません。
ただしこの項目は精神発達にも関わる項目なので、以下の②のケースでも「×」になります。
(2)「項目に×がついている=聴力が異常」というわけでは必ずしもない。聴力は正常でも、精神発達が遅れているために「×」になることがある。
今度は(1)と逆パターンです。
聴力はOKなんだけど、それをインプット・認識して、言語として理解していく、という精神発達が遅れている場合、チェックリストの項目としては「×」になってしまうことがあります。
音は聞こえていたとしても、それに喜びを感じるのか。それを他人に表現し、共有しようとするのか。単純に「音が聞こえる」ということと「コミュニケーションがとれる」ということは全く別の観点です。
なお(精神発達の遅れがでている原因にもよりますが)そのお子さんなりに精神発達がすすんでいくにつれて、このチェックリストの項目も「○」が増えていくことが示されています。
とくに生後32週未満などの早産でお生まれになった場合、生後2~3年間くらいの精神発達は、どうしても(早産でないお子さんにくらべて)ゆっくりになりがちです。
こうした場合、聴覚は正常でも、このチェックリストでは、月齢相当から2ヶ月くらい遅れがちというデータもあります(乳児における難聴の早期診断 -田中、 進藤式乳児の聴覚発達テストの検討-)
チェックリストはあくまで目安。でも生後6ヶ月をこえて聞こえや発達が気になってきたら、一度相談してみて。
うーん。なんとなく周りの音や声かけにも反応もしてるし、耳の聞こえはOKだろうと思ってきたけど、この記事よんだり・チェックリスト見たりしたら、不安になってきちゃった。そんな方もいるかも知れません。
まずチェックリストについては、仮に、聴覚や精神発達が正常の範囲内のお子さんでも「○がつく時期はかなり個人差が大きい」という点を、再び、強調しておきます。
また「じゃあそんなに聴覚が大事なら、乳幼児健診ごとに、全員に聴覚検査すればいいじゃん」って思う方も中にはいるかもしれません。が、これもまた現実的ではありません。
聴覚検査には色々な種類がありますが、基本的には、赤ちゃんが寝ていたり・泣いていなかったりする状態で、静かな環境で数分間じっとしているような検査です。
精密な検査では麻酔のお薬を使うこともあるくらいです。
これを沢山の赤ちゃんが集まる乳幼児健診で、しかも人見知り・場所見知りもはじまったような月齢の赤ちゃんにやるのは、非現実的です。
・・・ということをご了承いただいたうえで、一応、耳の聞こえについての「受診の目安」を最後におしめししておきましょう。
なお「なん語がでているか」「有意語(一語文)がでているか」などについては、さらにバリエーションがあり、難聴以外の要素のほうが大きくからむことが多いです。
よって、ここでは「ご自宅で判断する受診の目安」としては適当ではいと判断し、記載していません。
言葉の遅れについては、おって記事にしていきます。
上記の結果、本当に難聴があるとわかった場合は、できれば生後6ヶ月ころを目処に、補聴器などの治療を開始できるのがベストではあります。
もし生後6ヶ月をこえていて、上記に明らかに当てはまるなと思われた場合で、かつ、健診や予防接種での受診もだいぶ先になってしまいそうな場合は、医療機関への受診を検討されても良いかもしれません。
なお、以下のような場合は、かかりつけの先生と相談したうえで、聴覚の検査を今後どういうふうに行っていくのか、治療はどうするのか、といったことを決めていく流れになります。
いかがでしょうか。
耳の聞こえについて、2回にわけて詳しく見てみました。
まずは産まれたときの新生児での聴覚検査を、全員が受けられる環境が整うことが大切ですよね。
助成が出ている自治体もあるので、(産院などでも案内されると思いますが)ぜひ利用しましょう。
その後も乳幼児健診で、運動や社会性の発達をチェックすることが、聴覚のチェックにもつながります。
とはいえ、毎日お子さんを見てくださっているのは、親御さん。
ご自宅でチェックし、少しでも安心できるポイントがみつかれば幸いです。
(この記事は、2023年2月2日に改訂しました。)