[小児科医ママが解説] SIDS【Vol.8】「過剰な体温上昇」はSIDSのリスク。室温やお洋服の目安は?
乳幼児突然死症候群(SIDS)の対策として、赤ちゃんの睡眠環境で、ぜひ皆さんに気をつけていただきたいことを前回書きました。
その中で「毛布やブランケットは使わず、スリーパーを使う。」というのがありましたね。
どれくらいの室温で、スリーパーを着せたらいいのか。
どんな洋服のうえから、スリーパーを着せていいのか。
そもそも、室温の推奨はあるの?
SIDSの一つのリスクである「過剰な体温上昇」を防ぐためにも、大事なポイントです。見ていきましょう。
SIDS連載すべてにおいて、共通の参考文献はこちら。
「過剰な体温上昇」はSIDSのリスク
SIDSのリスクの一つとして、「赤ちゃんの体温が過剰に上昇してしまうこと」があります。
厚着や室温の高さ、ブランケットが赤ちゃんにかかる(それによって体温が上昇する可能性がある)ことが、SIDSのリスクを上げるのではないかという報告は、実際に複数あります。
(①BMJ. 1990;301(6743):85–89 ②BMJ. 1992;304(6822):277–282 ③N Engl J Med. 1993;329(6):377–382 ④JAMA. 2002;288(21):2717–2723)
室温については、「寝室で暖房を使っている場合」に、SIDSのリスクがあがるのではないか、という報告もあります。
(Paediatr Perinat Epidemiol. 1995;9(3):256–272)
さらに、うつぶせ寝をしていることで、この「過剰な体温上昇」がSIDSにつながるリスクが、より上がるのではないかという報告もあります。
(N Engl J Med. 1993;329(6):377–382)
こういう点からも、なるべくうつぶせ寝は避けてあげたほうが良い、というのがメッセージとして読み取れます。
※でも実際、寝返りやうつぶせが大好きな赤ちゃん多いから、むずかしいよね。どうしたらいいのよ。っていう話は、前回の記事に書いています。
※なおいずれの研究も、SIDSという疾患の特性上・また研究の解析手法上、あくまでオッズ比、という報告でしかないので、○倍リスクを上げる!という書き方はできません。ご了承ください。
なぜ過剰な体温上昇が、SIDSにつながるのか。詳しいメカニズムは未だにわかっていません。
しかし、たしかにお洋服や室温などの影響で、赤ちゃんの体温が上がりすぎてしまうことは、良くなさそうとういことは分かっています。
じゃあ実際に、お部屋の温度はどのくらいにしたらいいのか。赤ちゃんのお洋服はどうしたらいいのか。といった点を見ていきましょう。
室温は18~22℃くらい。お洋服は上下1枚ずつ+あとはスリーパーで調整。
結論からいうと
いうところです。
が、これは別に、世界中のあらゆる学会や公式団体が、絶対にこうしろ!といっているものではありません。
あくまで今までのSIDSの研究などを踏まえると、こう言えるのでは、というザックリした内容ととらえてください。
実際に米国小児科学会も「どれくらいの室温が良いか、をガイドラインとして提示するのはむずかしい・すべきでない」という見解です。
お洋服も、どんなものを・何枚着せたらいいかとかも、正式な提言はされていません。
考えてみれば、住宅環境は国によって・地域によって・各家庭によって本当に様々です。湿気がめちゃくちゃ高ければ、同じ室温だとしても、体温がこもるリスクはより高くなります。
ほかにも、大人が添い寝していたら?窓やドアが空いていたら?直射日光がどれくらい入るか?色々なバリエーションがありますよね。
また、SIDSで不幸にも亡くなってしまったお子さんを、後から検証すると「生まれつき(体温などを含む)自律神経の調整がしづらい原因があるお子さんが一定数いるのでは?」ということを、前回書きました。
つまり、高い室温や・厚着させすぎた、という環境要因だけで、どこまでSIDSにつながっているのかは、なかなか判断がむずかしいのです。
どれくらいの高い室温だったら、赤ちゃんがどれくらい死にやすくなるのか。そんな単純な検証はできないのです。
もうちょっと詳しくみていきましょう。
室温は「大人が心地よいと感じる温度」
なので米国小児科学会や、米国保健福祉省としても、正式に「お部屋の温度は○℃にしてください」とは宣言していません。
「(赤ちゃんに聞くわけにはいかないので)大人にとって心地よいと感じる温度にしてください」というザックリした書き方です。
世界的な論文や研究をまとめて報告してくれているUpToDateでも「大人が薄着して、ちょうどいいくらいの温度にすべきでは」という書き方です。
また「ヒーターや直射日光があたるところで、赤ちゃんを寝かせない」という提案もしています。
ただ具体的に「○℃が良い」というのは、公式ではない・民間のホームページやサイトなどでは記載があり、海外では「16~22℃」の範囲が多いです。(ホームページの例:①・②・③・④・⑤ など)
ただしこれが、具体的になにかの論文やデータを参考に導かれた値かというと、確固たる根拠は無いと思います。
専門家などのエキスパートオピニオンなどを参考に、上記の値が参考として記載されている、と思ったほうが良いです。
ちなみに日本での公式見解としては、とくに乳児の睡眠についての詳細なものはありません。
が、たとえば厚生労働省の「保育所における感染症対策ガイドライン」で示されている室温の推奨は、「夏:26~28℃、冬:20~23℃」というものです。というものです。
上記の海外の推奨と比べると、だいぶ暑いですよね。
絶対的な医学的な根拠・エビデンスがない以上は、どちらがいい、とはいえません。
ただし、日本はとくに湿気が多いので、温度も低め・低めを意識したほうがいいのでは、とは思います。
(なお湿度については、上記の厚生労働省のガイドラインでは「60%」が目安です。)
睡眠中の換気は、エビデンスなし。
なお換気については、SIDS対策としては賛否両論があるところです。
寝室の窓やドアが空いているほうが(つまり換気されることで室温が下がる可能性があるほうが)SIDSのリスクが減るのではないか、という報告は一応あります。(Soc Sci Med. 1989;29(8):1015–1026)
また寝室で扇風機を使うことで、SIDSのリスクを72%下げるのではないか、という研究もあります。(Arch Pediatr Adolesc Med. 2008;162(10):963.)
しかしいずれの研究も、十分なSIDSの症例数を検討しているわけでもなく、量・質ともに満足のいくデータがそろっているわけではありません。
上記をうけて、米国小児科学会としても「学会として、SIDS対策として、扇風機を使うとか、どういう換気の状況がいいとかは、ステートメントは出せない」という見解です。
少なくとも、大人よりも厚着はさせない。
洋服の枚数についても、同様に、公式団体の絶対的な見解はありません。
だたし論文として、「赤ちゃんに2~3枚以上のお洋服をかさねて着せている場合」に、SIDSのリスクが上がるのではないか、という報告があります。(JAMA. 2002;288(21):2717.)
これらをうけて米国小児科学会としては「大人が着ている枚数以上に、厚着をさせない」と提言しています。
(“Safe Sleep and Your Baby: How Parents Can Reduce the Risk of SIDS and Suffocation”)
また世界的な論文や研究をまとめて報告してくれているUpToDateでは「スリーパーを着ている場合は、ブランケットはいらない」としています。
(そもそもSIDSの対策として、毛布やブランケット・枕などは、ベッドに入れないんでしたね。)
ちなみに公式団体の見解はではありませんが、一応このホームページで初回している温度・洋服の目安は、医学的に見ても、まずまず妥当だなと思えるものです。
※この画像の中ででてくる”tog”は、主にイギリスで使われる、お洋服のあたたかさの目安です。日本ではあまり馴染みがないですよね。数が大きいほど、よりあたたかいお洋服、というイメージです。
繰り返しますが、これは世界的な公式団体の見解・医学的に絶対のエビデンスがあるものではないです。
SIDSという疾患の概念や研究のむずかしさから、致し方ないことです。が、一つの目安として、とにかくSIDS対策として「厚着させすぎない・暑くしない」ことを常に意識してもらえたら嬉しいです。
「厚すぎ」のサイン:温度チェックは「胸・腹・背中」で。
米国小児科学会は「赤ちゃんの胸をさわって、熱いと感じる場合。また汗をかいている場合。これは、厚着させすぎ・暑すぎのサイン。」としています。
(“Safe Sleep and Your Baby: How Parents Can Reduce the Risk of SIDS and Suffocation”)
ほかにも、公式団体の見解としては示されていないですが、赤ちゃんが「暑すぎ」の可能性をチェックするポイントとしては、医学的には以下があると思います。
手足を触って暑くないから、大丈夫。というのは、あまりおすすめできません。
赤ちゃんは体の中心の温度が高い・ほてっていても、手足の温度は冷たいことはよくあります。
米国小児科学会が推奨しているように、胸。そのほかは、お腹や背中など、体の中心に近い場所で暑すぎないかチェックすると良いでしょう。
いかがでしょうか。
住宅・睡眠環境はそれぞれですし、あくまで上記は一つの目安です。
が、赤ちゃんに厚着させすぎない・室温を上げすぎないこと。
毛布やブランケットではなく、スリーパーで調整してあげること。
単純ですが、これも立派なSIDS対策になることが伝われば幸いです。
(この記事は、2023年2月7日に改訂しました。)