忘れんぼ姫の花道 後編
花江さんなら、今どきの考え方をスマートに取り入れることができるはず、と。すると「まぁ、後輩に頼まれたら仕方ないわね。ふふふ。」といたずらっ子のように笑った。
そしてこの日はれて、介護保険新規申請にも、また暫定サービス利用にも、同意を得ることができた。
介護保険は申請した日からサービスの利用を開始することができるが、認定結果が出るまでに約2か月程度はかかると考えておいたほうがいいため、結果が出るまではあくまでも暫定的な期間となる。
暫定的な期間に利用したサービスの単位数が、認定結果の利用可能単位数を上回る場合は、その利用料金は自費負担となるリスクがあり、そのことを何度かに渡って慎重に説明させて頂いた。
が、「お金には困っていない。全額自費でも、必要だと貴方が思うなら、そのサービスは利用します。」と竹を割ったような返事が返ってきた。
介護保険サービスを利用するためには、ケアプランを作成する必要があり、ケアマネージャーに依頼することとなった。花江さんは「ケアマネージャーさんはおしゃれな人がいい。」と希望を出した。
相談当初は、取りつく島のないような印象のケースも、こうして信頼関係を少しずつ築いていきながら、支援の繋ぎ先を一緒に紡いでいく。
「認知症かな、と思ったら、とりあえず相談を」というチームのフレーズを思い出して、気軽な感じで電話をくれた薬剤師に、感謝の念が湧き起こる。
こうして、訪問看護による服薬管理、訪問介護による掃除・買い物・調理・受診同行のサービスが導入され、姫のお城は花江さんらしさを取り戻した。
コンロの上の美しい布は、清潔に拭き上げられた食卓を飾るようになり、火の元の管理ができるようになった。
お薬も毎日きちんと飲めるようになり、汚れた衣服を着ることもなくなり、昔のようにふっくらと肌艶も良くなった。
そして、花江さんはバレエとファッション好きのケアマネージャーと、毎月話すことを楽しみにしている。
認知症専門医への受診についても、「後輩の貴方からのお願いなら、受けてあげてもいい。」とおっしゃられた。
「後輩ちゃん、教えてあげる。本当に自立した大人の女性は、甘え上手なのよ。ふふふ。」花江さんは花のように笑った。
……おわり
☆いつか作家になる時には花江先輩のことを書きます、という私に
まるで少女のように「綺麗に書いてね!」とウィンクしてくださった花江さん。
強く美しい先輩のご冥福をお祈りいたします。
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