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廓を通って 後編

 ここは昔遊郭と呼ばれたところ。
 普通の住宅街を抜けて、小さな通りを渡ると突然そこへ入っていく。
 朝のその地域は、夜のそれとはまったく違った面持ちをしていた。

 「おはようございます。」
 別の玄関から、潤いある肌を露わにした女性の声がした。
 目が合うと、少し微笑んでくれる。

 私はその通りを自転車を押して歩き、先にある訪問居宅を目指す。
 訪問看護初日、初めての仕事に向かう私は緊張していた。
 ご縁があってその地域住民の担当となったが、正直怖かった。

 貧困・犯罪が横行していて、夜は絶対に近づいてはいけない場所。
 昔からそんな風におしえられてきたところ。
 当たり前のように、いつも路上に酔っ払った男性が横たわっている。

 地域のさまざまな困難性もしかり、訪問看護というお仕事も初めて。
 多分ものすごい緊張感で自転車を押していたんだと、思う。
 背筋をシャンと伸ばして、勇ましげな感じだったんだ、と思う。

 お互いに朝早くから、お人相手の仕事をしている。
 ある意味、肉体労働であり感情労働である仕事。
 玄関口で座る女性たちと、目を合わせて挨拶を交わす。

 私はその美しく窶した女性たちとの挨拶に、癒された。
 お互いに今日もがんばりましょうね。
 そんな風にお互いが声をかけ合っているような、感じがした。

 廓を通って仕事に向かった、あの日々。
 挨拶を交わしてくれた女性たちの、小さな微笑み。
 あの挨拶と微笑みが、私の仕事の背中を押してくれていた気がする。

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