黒
去年のいつ頃からだろうか。気がつけばわたしは、わたしの中のわたしを失いかけていたようで、ひとり逸れた断片的なモノクロの景色が、濁流に飲まれていくような音と感覚が、今、足元に散らばっている。
そのかけらをひとつひとつ拾い上げるたびに、ガラスで刺されるような胸の痛みを覚えるけれど、それでもひとつだけ、この痛みはあの頃のものと違うことだけは、はっきりとわかる。
あの頃のような、上も下も、右も左も、音も温度も、空気すらない、無機質な鳥かごのようなものではなかった。深い深い闇夜のように果て無く広がる、黒くて温かい痛みだと思った。
その“黒”に包まれていく途中で、この中にはたくさんの色があることを知った。“黒”は、無数の色が混ざってできる色だった。温かい色も、冷たい色も、明るい色も、暗い色も、全てが混ざってできる色だった。
わたしは、これまで描いてきた鮮やかな色が混ざりゆく果てに、その意味を初めて知った。
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