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(劇評)安心して笑える時間
『学芸員 鎌目志万とダ・ヴィンチ・ノート』の劇評です。
2025年2月9日(日)13:00 ライブビューイング
私設美術館、葛原美術館に学芸員としてやってきた鎌目志万(鈴木拡樹)は、どこかタイミングのずれた妙な人物。レオナルド・ダ・ヴィンチの研究をしているが学芸員資格を持っていない彼は、どうやら本社である葛原建設から左遷されてきたようだ。夜中の美術館で鎌目を発見した警備員、小島小次郎(辻本耕志)は、警備員室に住み着いている。しかも警備員室でマンガを描いている。そのマンガを手にした鎌目は、原稿から小島の思いを読み取る。彼は旅行先で落雷を受けた際に、絵から作者の思いを読み取る不思議な力を身に付けていた。
勝手に注文にない建物を作ってしまう大工の鰤田勘次(中條孝紀)、コンビニにおでんを買いにいくだけでもかっこいい経理の樫尾花子(三枝奈都紀)、美術館館長であることにプライドを持っている永田永作(菅原永二)、あまりに人が来ないので監視中に小説を読み心の声がだだ漏れな監視員、小池幸子(前田友里子)。鎌目を迎える職員達も曲者揃い。美術館唯一の学芸員、森永リサ(生田輝)は、資格を持った学芸員が来たわけではないことに気を落とす。
貴重な作品を所蔵していない葛原美術館には人が来ない。そのため、本社から閉館の命を羅山和夫(古屋敷悠)が伝えにくる。職員達が懇願し、羅山は次の企画展で多数の来館者を呼ぶことを存続の条件として挙げる。ただし、期間は2カ月。目玉の作品はない、他館から作品を借りるお金もない、時間もない。そんな窮状を、鎌目の研究と力が救う。
物語は非常にわかりやすい。経営難の美術館が新奇的な企画展で人を集め閉館の危機を脱するという流れだ。最初に、この物語がどのように進むかの説明までなされている。意外な展開は起こらない。よって、物語に予測不可能性を求める人には物足りない感があったかもしれない。そのように物語を組み立て、最初にあらすじの説明までしたのは、楽しみやすさのハードルを下げるためだったのだろう。脚本・演出の小林賢太郎は公式サイトでこのようにコメントしている。
8人の登場人物が描くのは、美術館の物語。美術館と聞くと、ちょっと難しそうに感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、「演劇」というよりは、「長いコント」くらいのノリで、お気軽にお楽しみいただけたらと思います。
気軽に楽しんでほしい。そのとおりの舞台だった。個性的な登場人物、その個性から発せられる言葉、間、動きが観客の笑いを誘う。途中、ダヴィンチが考案した木材を組合わせるだけで作る橋を、男性職員たちが作るシーンがあった。ライブビューイング回では三度目の挑戦で成功していた。他の回がどうだったのかはわからないが、そこそこ時間がかかるこのシーンが繰り返されることには面白味があり、そして彼らを応援したくなってしまう愛着のようなものを感じさせた。その心を持ったまま迎えるエンドでは、美術館の存続、そして鎌目たちのその後を、観客は素直に喜ぶことができるようになっている。安心して笑い、楽しむことができる。そういう舞台も、特に舞台初心者を観劇世界に呼び込む上では、必要だ。
ライブビューイングは定点映像であり、舞台全てが見えるのはいいのだが、俳優を追いたい人には小さかったであろう。生配信のため、カメラをスイッチするのは難しいとは思う。クローズアップしてほしい場面は観客によって違うのだから。とはいえ、地方でもこのような舞台が観られるのはありがたい機会である。
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