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(感想)それでも信じていられただけよかったのか

(以下、筆者Xより転記)

映画『風が吹くとき』鑑賞。日本初公開から37年ぶりの再映。3日以内に戦争が起こるとラジオで聞き、政府のパンフレットに従いシェルターを作る夫と、妻。数日後、ラジオは3分後にミサイルが落ちると伝える。暖かいタッチのアニメーションで、直接的な残虐、恐怖描写はないが、じわりと怖さがある。

夫のジムは図書館に通うなどして世界情勢や軍事情報を得ているのだが、それでも核爆弾について詳しくは知らない。妻のヒルダは、かつての戦時をくぐり抜けたこともありどこか楽観的である。二人は政府の情報を信じて簡易的なシェルターを作り、政府が助けてくれると信じて待つ。

しかし「3日以内に戦争が始まる」「3分でミサイルが落ちてくる」と聞いて、私に何ができるだろうか。何もできない。怯えて慌てるばかりだろう。その恐怖を知る立場として知らない立場の二人を見せられることで、翻って自分はどうなのだと問われる。

直接的に酷い描写はないものの、柔らかだった二人の顔がやつれ、体に異変が出るなど、そのようなタッチの絵であるからこそ、そんなことがあっていいのかと思えてしまう。冒頭が実写映像であることは、この作品が絵本の中の話ではなく現実に近い話である証なのだろう。

かなり悲観的な考えだとは思うが、政府を信じていられた二人でいくらかよかったような気がしてしまう。私は多分、信じられない。戦争が起こっても、すがることのできるものはない。そんな思いになって落ち込んでしまった。

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大場さやか
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