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多拠点思考はメタ認知 25.2.3-2.9
先週、「調子が悪いかも」と中途半端に書きっぱなしになった前回。結果的に、それ以上悪くならずに復調。たぶん、月経周期的なものと1月後半からあまりにも移動が多くて疲れていたんだな。調子が悪くなりそうな予感がしたので、実は、本来なら行くはずだった東京出張(自分が行かなくても支障はない視察)とこれまで行かなくても良さそうな講演会をキャンセルしたことで余白が生まれて、それで気分の波が持ち直したような気がする。
年齢を重ねて、今後体力も落ちてくる中、いい塩梅で生きていく知恵は大事だなと思う。
そんなこんなで必須のお仕事に絞り込んだ1週間。出張をスキップしたので土日はのんびりしつつ、noteを書いたり、原稿を書いたりしている。
複眼視点で地域を理解する
先日、ソトコトの指出さんを迎えた関係人口/二拠点居住のワークショップに参加したことは前に書いた。
私は、基本的には釜石に住んでいるので、二拠点居住をしているわけではないのだけれども、主たる仕事が取材とライティングなので、色んな土地(おもに東北)に赴き、その土地で生きている人のお話を聴いている。ちょっと強引に言うと、常日頃から他拠点的な思考をしている。なので、指出さんが近著「二拠点思考」で提唱している思考法には共感するところが多い。
ローカル to ローカル の思考法
とくに、ローカルで活動する人が別のローカルにも拠点を持つ(または「かかわる」)ということは、とても重要だと思っている。なぜならば、都市との比較ではなく、ローカルとローカルで比較してみることで、その土地の個性や強みが想定的に浮かび上がってくるからだ。
比較とか強みというと、利便性とか行政による支援制度といったものが想像されるかもしれないが、そういうことではない。
私が言いたい個性や強みというのは、風土を醸し出している歴史や文化といったその土地の固有性のようなもののことだ。
例えば、食文化。中でも保存食が分かりやすい。
三陸には、鮭を塩漬けにして寒風にさらす「新巻鮭」がある。
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これは冬の三陸は風が強く、しかも乾燥しているからこそ成り立つ産品で、江戸時代はこれを江戸に運び廻船問屋は財をなしたと言われる。一方で、同じ魚の保存食でも、津軽のいずし(飯寿し)や金沢のなれずしは発酵を利用したものだ。
一昨年、ムックをつくるための取材で津軽に通った。
この時にいずしを作っているおかあさん方にお話を聴いて以来、興味を持って色々なところで魚の発酵保存食について尋ねているのだが、岩手では(少なくとも三陸では)今のところ、この種の保存食が残っているという話は聞かない。
塩漬け・乾燥の新巻鮭と発酵のいずしのどっちが良いとか悪いとか(発酵の方が健康には良さそうだけれど)ではなく、雪が多く発酵文化が今も残る地域とほとんど雪が降らない三陸とで食文化に差異があることを知っているのと知らないのとでは、「新巻鮭」一つをとっても解像度が変わってくると私は思う。
もし、自分が津軽や秋田や庄内に取材に行かなかったら、三陸では一般的な保存食であった新巻鮭についてこんなふうに考えなかっただろう。そう考えると、複数の拠点を持たないにしても、複数の土地に足を運び、その土地をよく知る人たちから教えてもらうことの価値は大きい。
最後に今週の振り返り
なぜかこの記事は1週間の振り返りではなく、複眼視点のことに終始してしまった。それはたぶん今週の水~木曜日は山形県に取材に行っていて、三陸との風土の違いを体感し、土曜日はおしゃっち(大槌町文化交流センター)で鮭の写真展とトークショーに参加して、そこで色々インスパイアされたから。
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三陸のサケは近年、ものすごい勢いで減少しているが、縄文時代前期までは八戸あたりがサケの南限で、気候変動によって、それが石巻あたりまで南に広がったのだという。
さらに、人工的なふ化・放流事業もあって昭和・平成に急増したサケだが、1970年ごろより前は、現代と同じくらいの数しかいなかったという。
そう考えると、サケの歴史もメタ認知してみると、近年の歴史的不漁はそこまで絶望的な事象ではないとも言えるのかもしれない。
とはいえ、サケ頼みになっていた漁業者・水産事業者にとって死活問題なのは言うまでもないが……。