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【1989年100日旅】35日目。モスクワ
1989年5月10日、旅は35日目。夜、モスクワ大の寮の父の部屋に「電気屋ボリス」と呼ばれるロシア人が来た。父の知人には珍しく不機嫌な人で怖かった。しばらくは父の部屋に私たちもいたが、そのうち「子供がうるさい」と追い出された。空想に遊ぶ子供だったのでボリスは犯罪組織に属する悪い人なんじゃないかと思っていたのだけれど、単に家電をちょっと直す便利屋とか闇屋的な仕事をしていたらしい。
バレエやサーカスに頻繁に行っていたのは、チケットの値段はとても安かったから。ただし、お金があっても買えないのが当時のソ連。人気の演目は日本人会や、闇屋的なチケットを横流しをしてくれる人など、人とのつながりが必要だった。電気屋ボリスは子供的には怖かったけれど、ありがたい人でもあった。
電気屋ボリスと父にモスクワ大学の父の寮の部屋を追い出された後、私たち子供はしばらく寮内をそほっつき歩いていた。でも夜9時も過ぎてチェス室もしまってしまい、できることがなくなった。だから、きょうだいと固まってエレベーターホールにあるぼろっちいソファーで寝た。親も全く心配しないぐらい、当時のソ連は安全だった。
そんな感じの35日目。旅は残り65日。
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