5月12日(日) 母の日。 夜、ベッドに体を横たえた私は「やっちゃったー」とうめいた。 気分良く一日を締めくくることができなかった情けなさから出た声だ。 あと数時間で日付が変わる。つまり、母の日が終わってしまう。 今年の母の日こそは日頃の感謝に何か贈ろうと思っていたのだが、ばたばたと日常をこなしていくうちにすっかり忘れてしまっていた。 気がつけば母の日当日で、私は完全に出遅れたのだ。 テンプレで贈り物を選ぶのは卒業しようという決意は、早々に失敗してしまったのである。
関東の学校では、体育祭は5月に開催されることが多い。 少なくとも、私の母校と近隣校はGW明けの開催が多かった。 GW中、母校のそばを散歩していたら、吹奏楽部の練習が聞こえてきた。 合奏練習ではなく、パートごとに分かれて譜面読みを進めているところなのだろう。 金管、木管、さまざまな楽器の音があちこちで鳴っている。 そのちぐちぐはぐな音の連なりに、一気に吹奏楽部に在席していた頃の空気が蘇ってきた。 練習中の締め切った部屋は蒸していて、なんとなく息苦しさがあった。 かちかちとメ
今から10年ほど前、私は雨の日を心待ちにしていた。 日本人女子って、世界でもトップクラスに雨に敏感なのではないだろうか。 雨が降る=湿度が高い。 つまりいくらヘアセットを頑張ったところで、外に出て髪の毛が湿度に触れた瞬間に、鏡の前の苦労は無に帰す。 無駄な時間を過ごした……と後悔するので、いつからか雨の日はヘアアイロンを使わなくなった。 洋服だって、晴れの日のようにはいかない。裾が長いワンピースやコートは泥の跳ね返りの格好の餌食だ。 よって私の雨の日の定番は、パンツスタ
情に厚いかと問われると、薄情である自覚がある。 興味のないことはすぐに忘れてしまうせいだろうか。誕生日のプレゼントはなにが欲しい? なんて自分から聞いたくせに、いざその日が近づく頃には頭からすっぽり抜け落ちてしまう。 そしてもう一度欲しいもの尋ねては、呆れられるのだ。 そんな調子なので、当然自分が家族の誕生日に何を贈ったのかも、いつの間にか忘れてしまう。 絶対になにかしらを贈っているのに、それが思い出せない。相手が母であろうと、妹であろうと、祖父母であろうと、等しく忘れてし
我が家には、天使のような暴君プードルがいる。 2023年9月16日。一生忘れないであろう、愛犬シュシュとの出会った日のことだ。 プードル専門犬舎に見学に来ていた私の心は揺れ動いていた。 ――「明日来る方は、できれば連れて帰りたい」って言ってるの。 ――でも、小さなお子さんがいるし、犬を飼ったことがないみたいで。その点あなたは介護まで飼い遂げているでしょう? ……できればあなたに飼って欲しくて。 ブリーダーさんのリップサービスに、私は「うぅ、そう来るか」と小さく唸った。