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銘店は記憶の闇に溶ける
郷里のビストロで名物だった。
ナイフを入れるとふわりと解けてチキンライスを覆っていく。
その光景が愉しくてよく注文していた。
もしくは法蓮草を練り込んで作ったオムレツだ。
生クリームが使ってあるのか、濃厚な味わいだった。
こんな手の込んだ料理を出していたあのお店は頑張っているのだろうか。不安になってネット検索してみると、とうに閉店して別店舗がオープンしていた。
昨年度で馴染みのお店が3店舗も消滅した。
ケーキ屋さんにお茶屋さんに、水産物屋さん。いずれも何店舗も営業していた老舗であり、そこにあるのが当然のようなお店だった。
そして今日また和食の大店舗が倒れたと聞いた。半年おきに郷里に帰る度に、想い出をこめて文字通り長崎の味を反芻している。それが今世の別れになるかと思えば、こんなに悲しいことはない。
どの一皿にも巧みが宿っている。
そして。
私の想い出の味も、思い出せなくなっている。
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