MINOX35GS
フィルムカメラはもう一台ある。
初めて購入したclassicなカメラで、長崎市の片隅にある中古カメラ店で購入した。知識溢れる店主が、下がりがちな眼鏡を何度も直しながら説明をしてくれた。
ミノックスはガラスケースに収まっており、自分のバイト代の1か月分で購入できそうだが、やはり若いみそらなので逡巡があった。しかしそれをひょいと乗り越えてしまうのも、若さでもある。
「ピントはどこですか?」
「これは目測だよ。被写界深度って知っている?露出で調整して、あとはシャッターを切って仕上がりで学んでいけばいい」
カメラに目測があるのか。
当時の私はその沈胴式のカメラの動きに魅せられていた。
ミノックスの上段にあったのがコンタックスTだった。初期モノのポルシェがデザインしたというアルミボディのそれだった。
「こっちはピン合わせできるけどね」
それは営業トークだったのだろうが、プライスタグはそれを断念するのに充分な額だった。
このカメラはもう少し稼げるようになってからにしよう。
後年にコンタックスを何台も集めたのは、その時の思いがあったからだと思う。
ミノックスには修練が必要だった。
被写界深度を見極めるのは、何本ものフィルムの浪費でもあった。
それでも掌に収まる大きさにその魅力があった。
短パンのポケットにもそのまま入ってしまう。
レンズは西ドイツの硬質な描写力があった。
ネオパンSSを入れたこれで、特に海外では身軽に撮影をしていた。シャッター音もないし、ゲリラ撮影には適している。
帰国して現像に出すときは、玉手箱を開ける気分だった。