払暁の眠り| 朝焼け
離島に移住して初日を迎えた。
睡眠時間は3時間程だが、眠れた方であったので、少し明るみだした空を見上げながらBROMPTONを持ち出して、港の方へと降りて行った。
紫色に棚引く細い雲が、朱に染まって輝きだした。
港に降り立つと、漁船群が緩い波頭に揺れている。
時が静止しているかのような光景を見つめながら、暫く佇んでいた。
移住を決意した頃は、重い睡眠障害を患っていた。
酷い時期には3日で2時間という有様だった。それでも食べていくためには経営を続けていた。家庭は既に崩壊していて、持ち家も売却している。愛犬だけが生活の潤いだったと思う。
処方される睡眠導入剤が日に日に重くなってくる。
友人の精神科医から、現状では命に係わるとの忠告を受けた。
煩悶と懊悩で眠れないくせに、仕事中や運転中などにもう物理的に存在するかのような睡魔の重圧が覆いかぶさってくる。
彼の心配は杞憂ではない。
会社を畳んで全ての係累に挨拶をして回った。愛犬も里親に預けて、半生を身軽に仕立て直して、ようやく離島に移住を果たした。
その払暁の光を浴びて。
潮風の匂いを楽しんで。
鳥の囀りを聞きながら。
閨に戻ると、静かな眠りに落ちていった。