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続々 人体錬成の過程 #生理痛の話

 胎内に爆弾を抱えていた。
 内径1.8㎜の尿管に8㎜を超える結石。
 それが肉体を削りながら下りていく苦痛は、真剣に骨身に沁みた。なので高位度治療を受けることにした。かつては結石を取り出すために開腹が必要であったが、身体にメスを入れない体外衝撃波結石破砕術というものがあるという。
 おお、それならば問題ない。
 幸いにも生命保険の健康特約でその手術費も賄える。ちょっとした中古車を一台購入できるほどの金額ですよ。
 
 さてその治療を経て。
 超音波破砕された結石を、排石していく必要がある。
 それからの2週間ほどは。
 血尿の日々、でしたわぁ。
 用を足して立ち上がって、その・・・水面を確認すると。
 まるでワインを流したかのような鮮血の日もあれば、どろりとした血溜まりの日もある。水面に血紐がゆらりと漂うときもある。
 ばかりか。
 妙な疼痛を抱えていて。
 ふと踏み出した足先から、身体の芯を突き抜けるような痛み。下腹全体のどこかとらえ処のない痛み。そして妙に頭が重い。痛みを予感して立ち上がるのも億劫。
「生理痛まで体験しているみたいね、いろんなタイプの」と妻が笑う。
「わかりますぅ、女のコの日なんですねぇ」と会社の女子社員から笑われる。
 さらに「お客様のお座布団を用意してます?」なんて聞いてくる。
「下着は汚さないから大丈夫。出産レベルの苦痛を体験したから、これくらい大丈夫」
 毎週の診察があり、下腹部に充てられたエコーで現状を把握する。妻の出産時の既視感デジャヴュがある。
 その時期、砕かれた結石が、ぽろりぽろりと膀胱に下りてきているらしい。結石が胎内を傷つけた結果がこの毎日の疼痛であって、血尿だということだった。
「最後の大物が剥がれて、動き出しましたね」
 医師が楽しそうに言う。
「これは4㎜ほども残っているので、ちょっと痛みがあると思いますが」
 と前置きをする。
「最期にイキんで出してしまわないと、陰茎のなかにひっかかったら、そりゃあ痛いです。最期には思い切って、出し切って下さい」
 妻は報告を聞いて笑い転げた。
「呼吸法でも教えましょうか、すうはあ、すうはあ」
「もう経産婦の痛みは味わったので、大丈夫」とこちらは正直青筋が立っている。

 やがてそのときが来た。
「ママ~、パパがトイレが唸っているよ」
「放っておきなさい。アレは産みの苦しみだから」
 尿道を具体的な異物がゴロゴロと転がっていく。
 残弾がもう残り少ない・・・
 大きく力んで出し切ると、ぺちっ、と衛生陶器に何かが貼りつく音がする。ゆらりと立ち上がると緊張が解けたのだろう、軽く眩暈を覚えた。
 
 排石したそれを病院で検査してもらう。
 見事なシュウ酸とカルシウムの結晶らしい。
 そのシュウ酸はほうれん草などに多く含まれているという。ほうれん草は鰹節やシラスを散らして、アミノ酸と一緒に食べると結石になりにくいという。そうしたレシピのあれこれを妻はメモメモしていました。
 なるほど、和食って本当に健康食なんだね。

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