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ベートーヴェン生誕250年 その2

今年はベートーヴェン生誕250年。ベートーヴェンは9つの交響曲のほかにピアノの曲をたくさん作曲している。誰もが知っているピアノ曲とは何だろうか?三大ソナタ、後期ソナタでもなく「エリーゼのために」ではないでしょうか。
この身近な曲を振り返ると大きな謎に遭遇する。謎というか、巨大な空白。みなさまはいかがでしょうか?

エリーゼのために?

 ベートーヴェンのピアノ曲で「こころとからだ」でおぼえているのは「エリーゼのために」です。「からだ」と大袈裟な書き方をしましたが正確には単なる右手の人差指と中指です。

 おぼえているわりには「エリーゼのために」はいつ、どこでどのように演奏されたのか、何の目的で、要するにどんな曲なのかまったく知らないことに気がついた。

Wikipediaによると
バガテル『エリーゼのために』(独:Für Elise)は、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが1810年4月27日に作曲したピアノ曲。「WoO 59」の番号が与えられているほか、通し番号をつけて『バガテル第25番』と称される場合もある

 1810年に作曲され、通し番号がつけられていることを知った。「バガテル第25番」。このバカテルなる言葉の意味は何だろうか。さらにバガテルを検索する。

WIkipediaによると
バガテル(Bagatelle)は、クラシック音楽で器楽(ピアノ)のための性格的小品(キャラクターピース)の一つ。バガテルとは、「ちょっとしたもの」「つまらないもの」という意味で、転じて軽やかな内容の小品を示す。

 驚いてしまった、そして引っかかってしまった。というのは、バカテルとは軽やかな内容の小品を指し語源に「ちょっとしたもの」、「つまらないもの」という意味があることに。

音楽室にて

 私はピアノを弾けないし、一度も習ったことがない。小学生の頃、音楽の授業で合唱があった。合唱の伴奏をするピアノを習っている同級生に休み時間になると、暇だったのか冷やかしなのか目的は不明ながら、ピアノの周りにあつまってどうやったらピアノが弾けるの、ちょっと教えてよ、と同級生を囲んだ。「猫ふんじゃった」を教えてもらい、弾けるようになった子供は次に教えてもらうのが決まって「エリーゼのために」だった。

 こころがおぼえているのはこのやりとりで、からだがおぼえているのは右手のテレテレテレ、テレレレーン、のメロディ。

 ふと思うことがある。ピアノを教えてくれた同級生は、ピアノを弾けない同級生をあしらうため「ちょっとしたもの」、「つまらないもの」のバカテル「エリーゼのために」を選んで教えてくれたのだろうか。

 小学校の休み時間のわずかな時間にそんな冷笑を含みでピアノを教えてくれたのだろうか。引っかかるのはこのような記憶があるからです。

ピアノの習い方

 子どもの頃、ピアノを習っていた友人に質問をしてみた。「エリーゼのために」をピアノを弾けないお友達に教えてことがあるか、と。

 返事は「そんなこと忘れた」だが、記憶は定かではないけれども、「エリーゼのために」は習ったと言う。バイエル、ブルクミュラー、ツェルニーを練習して曲に向かう、というのがピアノ学習者のコースというのだ。
 全音音譜出版社バイエルの巻末を読むとその通りで段階分けされている。初級・第1課程に標準バイエルピアノ教則本、初級・第2課程でツェルニーあるいはブルグミュラー、中級・第3課程にバッハ、モーツァルト、シューマン、シベリウス などに進む。進み方は先生と生徒の趣味志向によるらしい。当然、中級にベートーヴェンピアノ名曲集があり「10.エリーゼのために」がおさめられている。
 ここで私は直感的に気がついた。実に簡単な話で、ピアノを習っていた同級生は頭の中でちょっとしたもの、つまらないもので「いいかな」と「エリーゼのために」を教えてくれた訳ではないのだ。おそらく。

 同級生は単純に最近習ったことを教えてくれたのだ。お友達が弾けるようになる、ピアノを弾く喜びを与えるためでもない。たまたま習っていた時期が重なって、私たちはピアノを弾く同級生におしかけ、ただそのまま右手で人差指と中指でテレテレテレ、テレレレーンを弾いてからだでおぼえただけなのだ。引っかかりが溶けていき「ちょっとしたもの」、「つまらないもの」という意味がありつつも、「軽やかな内容の小品」である「エリーゼのために」がすこしわかってきた。

 どのように演奏されているのか、がわからなかったものピアノを弾く同級生あるいは弾けない私や友達の右手演奏経由が大半かなとも思えてきた。
「エリーゼのために」をピアニスト達はどのように演奏しているのだろうか。


ラックに「エリーゼのために」がない

思い立って、うちの棚にある「エリーゼのために」を数えてみたら、なんと1枚もない。ピアノの曲をリストアップしてみると1番おおかったのは3大ソナタシリーズだった。
1 アルフレッド・ブレンデル 月光、悲愴、熱情(PHILIPS)
2 ウラディミール・ホロヴィッツ 月光、悲愴、熱情(CBS/SONY)
3 クラディオ・アラウ 月光、悲愴、熱情、テレーゼ(PHILIPS)
4 リリー・クラウス 悲愴、ソナチネ、ワルトシュタイン(コンサートホールソサイエティ)
5 ルドルフ・ゼルキン 月光、悲愴、熱情(CBS/COLUMBIA)
6 ルドルフ・ゼルキン 月光、悲愴、熱情(CBS/SONY)

リリー・クラウスは月光と熱情は入っていないけれども。

 振り返るとピアノコンサートで「エリーゼのために」がプログラムにあることは個人的な経験で言うと、お目にかかったことがない(少ない)。これをめがけて足を運んだことがない。みなさまの棚とコンサート経験はいかがでしょうか?ピアノを教えてもらったのに「エリーゼのために」はなんら興味が無いのだ。無自覚で避けているのだろうか。

 これは私だけの思いなのだろうか。全音楽譜出版社「ベートーヴェンピアノ名曲集」の「エリーゼのために」の解説を読むと、

余りにも有名な曲で何も説明することはないが、流麗な中に激動的な部分が入っているため、
全体が引きしまって感じられる。(出典:ベートベン ピアノ名曲集、全音楽譜出版社)

バッサリと思いませんか。有名だから説明不要。裏を返せば、説明不要だから何も聞くな、考えるな、と。夜になったら朝になる。人は必ず腹が減る。深く追うなと。受けとめろと。

ユニバーサルミュージックの特設サイトに「エリーゼのために」がベートーヴェン超定番30曲というページで取り扱われている。


よく知られるピアノ小品。タイトルは謎めいている。これまでは、ベートーヴェンが当時結婚を考えた女性テレーゼ・マルファッティのために書いたものの、後に楽譜を発見した出版者が、作曲者特有の悪筆で記された「テレーゼ」を「エリーゼ」と読み間違えて、その名を付したのではないかといわれてきたが、2010年、ドイツの音楽学者が、歌手「エリザベート(愛称エリーゼ)・レッケル」のために書いたとの説を発表。真実は不明のままである。(出典:ユニバーサルミュージック https://sp.universal-music.co.jp/beethoven250th/music.php)


 よく知られているにもかかわらず、真実は不明。ユニバーサルのHPは30曲を初心者、中級、上級と分けている。

 私の個人経験に加えて、全音は説明不要、ユニバーサルは真実は不明、このような扱いをされ、よくわからない曲をもっともなじみのあるベートーヴェンのピアノ曲として受け入れている。なぜだろうか?本当に巨大な謎だ。

 理由なく友達にピアノを教え、そして習い、ピアノで弾ける唯一の曲となる。しかも、出だし少々のメロディ。練習本は説明不要とバッサリ、特設サイトは初心者向けと位置づけ、不明を突きつける。
 誰もが知っていて誰もよく知らない。エリーゼ自体も誰だがわからない。だからと言って、エリーゼをとくに知りたいと思わない、CDにも触手がのびない。巨大な謎で空白、それが「エリーゼのために」ではないでしょうか?

ウラディミール・ホロヴィッツ「月光」第3楽章と「悲愴」第1楽章・第2楽章をつなげて聞く

 そもそも予定では、私のおすすめ「エリーゼのために」をご紹介しようと思っていましたが、CDもレコードも持っていない。気持ちを変えて三大ソナタを聞いてみました。
 ホロヴィッツのCDは月光の次に悲愴の順で録音されています。月光の第3楽章と悲愴第1楽章をつながりで聞くと本当にグルーブするサウンドです。第2楽章はグルーブ後の休憩曲です。

 さらに楽しむためには小道具を用意され応援風にも楽しめます。
 手元にハンカチを持って月光3楽章が始まったと同時に曲に合わせて、巨人軍の応援スタイルであるハンカチグルグル回しをやります。メロディのあいまにジャーンと弾きこむ箇所があるのでそれに合わせて、矢沢永吉のライブの時にファンが名曲「トラベリン・バス」でタオルを上に天高く投げますが、同じ要領でジャーンに合わせてハンカチを投げると気持ちが良いです。

 ジャーンはCD再生時間で言うと、おおよそ29秒、49秒、55秒、1分57秒、2分26秒、2分33、4分35秒、4分57秒、5分3秒あたりです。
 ブレンデルのCDでも録音順序が同じなので応援風の鑑賞をしてみました。ブレンデルの音は空間の広がりを感じさせる演奏のためうまくハマりませんでした。ホロヴィッツは空間を刻む打楽器的な演奏のためハマりが良いです。
 悲愴第1楽章も同じ要領です。ただし、けっこう疲れるのでメロディに合わせてラップ風に歌詞を勝手に作って歌ってみると心地いです。月光と悲愴で体力を消耗するので、悲愴第2楽章はクールダウンです。

 また、月光第3楽章のCD再生時間で言うと、7分12秒、13秒、14秒にそれぞれフレーズをつけて絶叫するのもおすすめです。「ベー・ト・ヴェン」とそれぞれ1秒毎に区切ってシャウトすると高揚感があります。

「エリーゼのために」って?

誰もが知っていて、知っているようで知らない気がする「エリーゼのために」。気がつくと触れることが少ない。私の名曲になり難い。本当に謎と空白の一曲だと思う。


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