A.ひざ
まるで、膝を擦りむいたかのような痛みが私を襲った。
なぜなら、膝を擦りむいたからである。
この歳になって膝から血を流している男の情けなさたるや。
私は内側に進むに従って、膝を皮膚、赤の層、白の層と呼んでいる。今回の擦りむきは白の層まで到達したようだ。
透明な粘度の高い汁が血とともに溢れ、痛みが事の重大さを脳に突きつけてくる。
前回擦りむいた時がいつだったかはもう思い出せないが、長いブランクは一日の疲れを洗い流すさわやかなシャワーを拷問へと変化させた。
何も質問されていないにも関わらず、勝手に何でも吐く準備が整った。
愛する我が子を人質に取られていたとしても、即時全てを打ち明けたであろう。
何も秘密を持っていなくとも、何かをでっち上げて喋り助かろうとしたであろう。
幸い私に子供はいない。
どころか、そもそも拷問ではない。
ただ、擦りむいた膝でシャワーを浴び、染みる痛みに顔を歪めるおじさん1人。
顔を歪めるおじさん1人。である。
そろそろ膝擦りむいたくらいでくどくどとうるさいとお怒りであろうか?
是非可愛らしいこの膝小僧に免じて、落ち着いて頂きたい。
さて、膝小僧とはよく言ったもので長年愛用していると愛着もひとしおである。
私なんかは、膝小僧に名前をつけて寝る前に呼びながら愛でるもんだから巷では膝入道と呼ばれ妖怪の類とされた。
当時は、髪の毛も剃りあげ膝入道に寄せていた黒歴史もあるくらいだ。
自分の膝2個じゃ飽き足らず夜道を歩く女性の膝小娘をコレクションし、自分のそれと入れ替えては悦に入るいよいよ名実ともに膝入道の時代もあった。俗に言う膝歴史だ。
膝歴史と言えば、年齢を重ねると膝は角質化し、黒くなる。足を伸ばした時の皮の集まった膝を注視するとなんともグロテスクである。
小僧なんてかわいいものじゃない。
逆に膝を曲げた時には、つるんとした可愛らしさが顔をだす。
なんだか、なぞなぞになりそうなのでここに記録しておく。
問.のばすとグロいのに曲げるとかわいいものなーんだ?
A.膝
なにはともあれ、梅雨の湿った風が擦りむけた膝に染みる夜。
皆様はいかがお過ごしか。