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イラク水滸伝(高野秀行)

なぜこの本

昨年、書評サイトのHONZが更新を終了しました。

私はおおよそ以下のルートで本を選んでいます。

  1. 書店、古本屋で興味を惹かれた本

  2. 知人、友人が書いている本

  3. 師匠や友人がおすすめしてくれた本 

  4. 書評で興味を惹かれる本

HONZは4.の代表的なサイトでどの書評も興味深いものでした。
終了は無念ですが、いつかくる終わりを自ら幕引きできるのはある意味で幸せなことかもしれません。
そんなHONZで紹介されていて興味深かった一冊がイラク水滸伝。

どんな本

表紙はアラブの伝統衣装に身を包んだ4人の男たちが舟を漕いでいる写真。
ステレオタイプにアラブ地域=砂漠と考えていると驚かされます。よく見ると水際に葦が見え、船上の人を見なければ何処か別な湿地帯のようにも見えます。

ここはイラク南部のティグリス川とユーフラテス川に囲まれた広大な湿地帯・アフワール。
世界史を学んだ方ならティグリスとユーフラテスに聞き覚えがあるでしょう。この地域はメソポタミアと呼ばれ、文明の起源の一つとなりました。栄える文明の裏側には各時代の反体制派や迫害された人々もいます。そういった人々は隠れ家を必要としました。アフワールは全高8mにも及ぶ葦が入り組み、さながら迷路のような湿地帯。騎馬も戦車も入って来られない湿地帯はそういった人々の住まう地域となったのです。

本書は世界を旅するノンフィクションライター高野秀行氏が偶然知り得たアフワールへの憧憬から舟で旅するまでを描いた探検譚。高野氏のポリシーは

誰も行ったことのない所に行き、誰もやらないことをし、誰も書かない本を書く

イラク水滸伝(高野秀行) 著者紹介より

未探査地に入り込むのを業とする高野氏でも苦戦するアフワール訪問準備から話は始まります。
旅の目標設定はアフワールを舟で旅すること。まさに表紙の写真です。
縁故社会のイラクで知り合いを辿ることで道を切り開いていきます。

水滸伝と題されていることからどんな豪傑が、と身構えますが、出てくる方々は親切で甲斐甲斐しい人々ばかり。イラクへのイメージが大きく変わります。
イメージを大きく変えるポイントのもう一つが食事。まさか鯉や水牛のチーズをイラクで食べられるとは…
多くのシーンで極東から来た旅人に食事を振舞うところが描かれており、ここでもイラクの人々へのイメージを変えられます。
文化的相違から理解に苦しむ風習(たとえば婚姻関係)もあるものの、本書の主題はアフワールに住まう人々にあると考えられます。

アフワールが世界遺産になった背景には遺跡や多様な生態系もあります。古く人類の文明が勃興した時を見守ってきた自然環境の包容力を見ていると目先の人間の小ささを感じずにはいられません。それもあってでしょうか、読み進めながら日本で日々仕事に追われていることを客観視する瞬間がありました。こうしたセレンディピティも読書の楽しみです。

誰に、どんな時におすすめ

旅好きの方にまずはおすすめ。私を含めた初級旅行者でも著者と周りの人々の視点や旅能力は学びも多く、どんな所でも行ける自信(錯覚でしょうけれど…)をくれます。最近、海外に行けていない方にもぜひ読んでいただきたいです。きっと一歩を踏み出す勇気が再び戻ってくるのではないでしょうか。

著者が現地で直接触れた一次取材成果も興味深いものが多く、なかなかいらっしゃらないと思いますが、アフワールの歴史や生物を研究される方、アフワールに赴く方にとっても貴重な事前情報となることでしょう。

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