井戸川射子さん「ここはとても速い川」
井戸川射子さん「ここはとても速い川」を読んだ。
主人公(と言ってよいのかな?)集の視点でどんどん日常が描写されていき集の気持ちがぱっぱと流れていく文体で、集カメラの視点の移行が早いのでリズムがつかめず最初はのれなかったのだけれど、そうか、これはどんどん身を委ねてどっちへいくかわからない觔斗雲(きんとうん)にのっかった感じで読んじゃおうと思ったら面白くなってきた。
昼休憩にお弁当を食べながら物語の中盤を読んでいたら無性にさみしくなった。
子供の時っていつも不安を感じていた気がする。
この物語に出てくる子供たちは児童養護施設にいるから不安が多いのが当たり前という訳じゃなくて(確かに家にいられない分そういう面も多いけれど)どんな境遇の子供もこのよくわからない世界やままならないことにいつも囲まれて、または親の機嫌を気にしたり、楽しいばかりでないことも多く感じている。
不安や不穏なことにとても敏感だと思う。
恵まれた環境の中で育った子だってそいういった不安はゼロではないと思う。(中にはとてもあたたかなご家庭で過ごしたので不安など感じた覚えがない、という方がいらしたら上記のような決めつけをしてすみません)
自分が見てしまったこと聞いてしまったことやってしまったこと、抱いた感情は誰にも話せないものではないか、と小さな体で秘密を抱えていたりするのではないか。
そういった人間がもともと持っている孤独な生態が集の視点や会話からにじみ出てきて私は卵焼きを食べながらふいに泣きそうになった。
昼休憩中の日常の中で一気に自分の中の子供の私に再会したような不思議な気持ちになった。さわやかだった。不安を感じていたのは私だけじゃないんだと子供の時の私を抱きしめたくなった。
人間の共通のさみしさを感じてそれは妙に安心できるものだった。
明日もみんなが心のどこかをくすぐる本に出会えますように。
おやすみなさい。