クリスマスだから食べたいダックワーズ 〈菓子四季録 vol.18〉
菓子四季録史上、最高にキュートなケーキができました(私調べ)。撮影中に何度「可愛い!!!」と叫んだことだろう。ちょうどいまの時期、クリスマスにぴったりなお菓子なので、その魅力をご紹介したい。
noteで続けているマガジン〈菓子四季録〉では毎回、季節の素材を使ったお菓子を紹介している。これまでに紹介したお菓子も見た目が可愛いお菓子だったけれど、今回、菓子四季録史上で最高と言ってもいいくらい可愛いケーキ「赤い実とスパイスのダックワーズ」が誕生してしまった。とにかく飾りがとても可愛いのだ。
クリスマスにぴったりなこのケーキ。まずは構成を説明したい。
土台になるのは、大きな円形に焼き上げたダックワーズ生地。その上にラスベリーのソースとスパイス入りのバタークリームを重ね、苺、ラズベリー、レッドカラントなどの赤い実で飾りつけをしたお菓子だ。ダックワーズは小さい楕円形(小判形)に作られることが多いお菓子だが、今回は15cmの円形の型で生地を焼き、その上に果物を飾るので、タルトのような見た目に仕上がっている。
ダックワーズというお菓子
先走ってしまったが、ダックワーズをあまり食べたことがないという方もいるかもしれないので、ダックワーズのことを少し書いておきたい。ダックワーズとは、卵白とアーモンドパウダーを混ぜて焼き上げた生地にクリームを挟んだり、のせたりしたお菓子だ。先述したように、小さい楕円形(小判形)に作られることが多く、バタークリームを挟むのが定番のレシピ。ダックワーズの魅力は焼き上がった生地表面のさくっとした歯ざわりと、内側のふわっ&ねちっとした食感の組み合わせ。かじったときは「かしゅっ」という音がする。この独特の歯ざわりは、焼き上がった表面に残った粉糖のおかげ。ふわっと感&ねちっと感は、しっかりと泡立てられたメレンゲが生み出してくれる。
バタークリームとは、その名の通りバターをベースに作られたクリーム。カップケーキやウェディングケーキのデコレーションに使われることも多い。製法は数種類あるけれど、今回のダックワーズでは卵黄を使わず卵白のみを使うタイプのバタークリームが採用されている。バタークリームは生クリーム以上に濃厚でコクがあるので、わたしは秋や冬の寒い時期に食べるのが好き。バタークリームを味わうお菓子であることも、いまの季節にダックワーズのレシピを紹介したい理由のひとつだ。
そんなダックワーズのなかでも、今回ご紹介する「赤い実とスパイスのダックワーズ」には特徴がある。それはクリスマスにぴったりだということ。理由は3つある。1)形状 2)色 3)飾りつけの楽しさだ。
クリスマスにぴったりな3つの理由
1)ホールの形状をしていること
ホールケーキ。そこにしかない特別感。ホールケーキといえば誕生日とクリスマス。数種類のカットケーキを選んで買うのも楽しいけれど、ホールケーキからしか摂取できない栄養があると思うのはわたしだけだろうか。ホールケーキを買うのは、なんといっても特別な日だけだから。ケーキが切り分けられ、自分のお皿に配られるのを待つ時間は、非日常のわくわくを届けてくれる。そして、みんなでひとつの味を共有しているというのも、嬉しさのひとつ。
2)赤と緑の組み合わせ
とびきり可愛いこのケーキ。ポイントはやはり、飾る果実の色合い。赤い実をとにかくたっぷり飾るべし。苺、ラズベリー、レッドカラント。こぼれるほど、もりもりに飾る。究極の可愛さを実現するためには、リミッターを外すことが大事なのだ。今回は、普段の食卓に上がることはないであろう食材、ザクロも飾られていた。レシピ担当の淳子先生いわく「もう、全部載せることにしたの」とのこと。ザクロは窓から差し込む太陽の光を浴びて美しく、宝石みたいだった。ありきたりな表現になってしまうけれど、それはたしかに宝石だった。
そして仕上げは、ローズマリー。少し紫がかった、美しい緑色をしている。たっぷりのせられた果実の赤色にハーブの緑色がアクセントカラーとして加わると、クリスマス気分を一層高めてくれる。普段ローズマリーを買うことがない方も、このケーキにはぜひ飾ってみてほしい。色だけでなく形の面でも動きが生まれ、一気に可愛さがアップするから。ローズマリーが余ってしまったら、葉っぱを枝から外して乾燥させ、ドライハーブにしておくのがおすすめ。お肉料理と相性抜群。パプリカと鶏肉のトマト煮込みにローズマリーを入れるのが、我が家の定番です。
クリスマスのデザートタイム。赤い実と緑の葉に彩られてきらきらしたダックワーズをテーブルに運んだら、歓声が上がること間違いなし。カメラを構えることを忘れずに。
3)飾りつけが楽しいこと
クリスマスの楽しみのひとつは、ツリーの飾りつけではないだろうか。このケーキもぜひ、飾りつけの工程を楽しんでほしい。タルトのような形状をしているので、どんな風に素材を並べるかによって出来上がりの印象が左右される。そこは腕の見せ所。
赤い実をバタークリームの上に置いていく作業はツリーにオーナメントを飾るような気分になれるし、最後にハーブを飾るのは、ツリーの頂上に星を飾る瞬間みたいだ。お菓子のツリーが完成したら、雪を降らせる気分で粉砂糖をふりかけよう。
考えてみると、飾りつけを楽しむことって、お菓子を自分で手作りするからこそ得られる特権だ。お店で売られているきらびやかなケーキを買ってくるのも楽しいけれど、自分の手で何かを作ることの楽しさも、忘れないでいたい。
ほしいモデルは決まってるのだけど、我が家はまだクリスマスツリーを持っていない。だから今年のクリスマスは、ケーキをツリーだと思って飾りつけを楽しむことにするのはどうだろう。赤い実をこぼれるくらい用意しなきゃ。
余談だが、わたしの好きな漫画『ブルーピリオド』に「ラッピングはビリビリに破かれるところまでが華ですよ社長!」という台詞が登場する(単行本9巻)。お菓子における飾りつけも、ぺろりと完食して消え去るところまでが華ですね。
冬とスパイスの香り
寒い冬、こっくりと濃厚なバタークリームが、ほかのどの季節よりも美味しい。今回のレシピでは、そんなバタークリームにも土台のダックワーズ生地にも、どちらにもスパイスが配合されている。スパイスは、シナモン、カルダモン、クローブ、ジンジャー、オールスパイス、アニス、ナツメグなどから、好みのものを組み合わせて使う。これらは「クリスマススパイス」と呼ばれる代表的スパイスだ(クリスマススパイスのはっきりと明確な定義は、調べたけれど残念ながら不明)。
クリスマススパイスの香りを嗅ぐと、わぁ冬がきた、と思う。数年前までのわたしはクリスマススパイスの魅力を知らなかったけれど、菓子四季録のパートナーである淳子先生が焼いたシュトレンに魅了されてからは、冬にはこの香りを嗅がないと物足りなく感じるようになってしまった。香りの持つ力ってすごい。クリスマススパイスは甘い香りがして、どこかあたたかくて、なんだか心がゆるんでしまう。noteを書いていたら、いまも嗅ぎたくなってきた。
クリスマスには魅力的な食べものがたくさんある。シュトレンも、ジンジャーブレッドも、以前の菓子四季録で紹介したクグロフも、どれも素敵なクリスマスの味。そして今回、新しくこのダックワーズを知って、クリスマスの季節を楽しむための味がまたひとつ増えたことが嬉しい。
あなたにとってのクリスマスの味はなんですか。あなたが好きなクリスマスケーキも、ぜひ教えてください。
赤い実とスパイスのダックワーズ
いよいよクリスマスが到来。今年食べるケーキは、もう決めましたか? もしまだの方がいて、自分で何か作りたいと思われているならば、定番のショートケーキでもロールケーキでもなく、ダックワーズを作ってみるのはどうでしょう。赤い実と緑の葉っぱのクリスマスカラーが可愛いです。クリスマスにダックワーズという選択肢はこれまでなかったけれど、あまりの可愛さに、これからは有力候補になりそう。たっぷり飾る赤い実を用意して、ぜひ作ってみてください。
イラストレシピ
菓子研究家 福田淳子先生のレシピ解説はこちらです。レシピのこだわりや、作り方や材料のポイントが掲載されています。
ダックワーズの解説や写真に加え、今回の記事にはクリスマスのお茶会の写真がたくさん掲載されています。先生がこれまで集めてきたお気に入りのクリスマスの飾りでコーディネートされたテーブル、是非見てみてくださいね。好きな色やモチーフで選ばれたというオーナメントやランプが可愛いです。そして菓子四季録でこれまで紹介した冬のお菓子「クグロフ」や「洋梨のケーキ」も、再登場しています。
ダックワーズの菓子四季録、おしまい。