#1 優等生物語。
夜9時。学習机のライトだけが、暗い部屋を照らす。
グシグシグシ、とシャーペンが紙を走る音と、時折ボキッと芯が折れる音がする。
開いたノートは、殴るほどの強さでグルグルと無限の円が暴力的に描かれ、ページを真っ黒く塗り潰していた。
腹の底から、自分をせき立てる何かが這い上がってきて、そわそわと落ち着かない気持ちになる。
内側をのぞき込もうとすると、瞬時にすごい力ではね返された。
手元に包丁があったら、手に取って誰かを滅多刺しにしてしまいそうなほどの黒々としたエネルギーが内で暴れ狂い、その持て余したエネルギーをなんとか宥めようと、ページを塗りつぶすことに力を注いだ。
心の中に広がる景色では、無限に灰色の丘が広がっている。それらは鋭く尖った針が無数に集まってできていた。
シャーペンを握る手に力がこもる。筆圧が増し、線が太くなる。
膨大な憎しみのエネルギーに翻弄されながら、私は円を描き続けた。
前のページには、今日習った理科の授業の内容が、丁寧にまとめられている。
学校と家との間、自分と周囲との間にある、薄くて白い仮面。
その溝の大きさに、とうとう耐えきれなくなっていた。
黒く塗りつぶしたページをビリビリと破いて、証拠を隠滅する。
生きることが、重い。今にも崖から落ちそうなギリギリの状態で、毎日を何とか生き延びている。
得体の知れない圧迫感に押しつぶされて、息ができなくなりそうだ。
黒く溢れてきそうな感情を必死に隠して、外の世界を生きている。
ああ、もうダメだ。
部活の練習で体育館の周りを外周する際、道路を見ながら、向かってくる車の前に飛び出したくなるような衝動を抑えながら、なんでもない振りをして今を生きているけれど。
このまま大人になったら私は、一体どうなるんだろう。
果てしなく遠い未来で、会社員として必死に自分をすり潰して、暗闇の中の小さな小さな明かりの中で生きている自分を見た。
———ゾッとした。
一刻も早く、一秒でも早く、今ここを抜け出したい。
この鬱屈した感情から解き放たれたい。
強く、強く、強く、腹の底からそう願った。
この瞬間から、私の物語がはじまった。
これは、ただの女の子の物語。何の変哲もない、だけど私にとってはかけがえのない、命のものがたりです。
つづく。