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【鳥取寺社縁起シリーズ】「因幡堂縁起絵巻」(4)
【鳥取寺社縁起シリーズ】第二弾として、「因幡堂縁起絵巻」詞書部分の注釈・現代語訳をnoteで連載いたします(月1回予定)。
〔冒頭の写真は、鳥取県立博物館『はじまりの物語ー縁起絵巻に描かれた古の鳥取ー』の表紙(「因幡堂縁起絵巻」の一場面)です。〕
■寺社縁起本文・注釈・現代語訳
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本文(翻刻)は、『企画展 はじまりの物語ー縁起絵巻に描かれた古の鳥取ー』〔鳥取県立博物館/2008年10月4日〕の巻末「鳥取県関係寺社縁起史料集」のものを使用しています。
※「因幡堂縁起絵巻」の概要は第1回をご覧ください。
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【 第二段 】
〈本文(翻刻)〉
行平既わか宿所をいて給比ハ三月の
半花さかりなるに山陰道はるはるの
旅なれは都の中かたかた名こりは惜かり
けれとも勅命たるうへはいそき下向せらるる
に山家のみちすから山遠して雲行客
のあとをうつみ松高して風旅人の夢
を破とはかやうの時にや有色易分残雪
底無情難弁夕陽中にとかくたひの
こころをなくさめて日数やうやうふる程に、
一宮に参着神拝事ゆへなくめてた
かりし儀式也
→行平既にわが宿所を出で給ふ。比は三月の
半ば花盛りなるに山陰道はるばるの
旅なれば都の中かたがた*名残は惜かり
けれども勅命たる上は急ぎ下向せらるる
に山家*の道すがら*山遠くして雲行客*
のあとをうづみ*松高くして風旅人の夢
を破るとはかやうの時にや。「色有つては分ち易し残雪の
底。情無くしては弁へ難し夕陽の中*」にとかく旅の
心をなぐさめて日数やうやう経る程に、
一宮に参着*神拝の事おへ以て※めでた
かりし儀式なり。
※テキストの本文(翻刻)は「参着神拝事ゆへなく」となっているが、それでは意味が通じない。絵巻本体の写真を確認し、「ゆ」の文字がそうとは読めなくもあり、「参着神拝事おへ以て」ではないかと推測した。テキストで「な(那)」「く(久)」と読まれた(訓じられた)字の判別が特に自分にとっては難しく、「「以」「て(天)」とはしたものの、確信は持てない。
〈注釈(語の意味)〉
*かたがた…①「人々」の敬意を含んだ言い方。②あちらこちら。ほうぼう。
*山家(さんか)…山中にある家。やまが。
*道すがら…道を通りながら。あるきながら。みちみち。途中。
*行客(こうかく)…道を行く人。旅人。
*うづむ〔埋づむ=埋める〕…(比喩的に)人目につかないように隠す。
*「色有つては分(わか)ち易し残雪の底。情(こころ)無くしては弁(わきま)へ難し夕陽(せきよう)の中(うち)*」…紅梅には美しい色があるので、容易に見分けられる、残雪のほとりでは。しかし、風流を愛する心がないと、夕陽に染まって赤く映えるその姿は見極めにくいものだ。前中書王(兼明(かねあきら)親王)。〔『和漢朗詠集』「紅梅」〕
*参着(さんちゃく)…まいるつくこと。到着すること。
※特に記載がない場合は『広辞苑』による。
〈現代語訳〉
行平ははやくも自邸をお出になった。時期は三月の
半ばの花盛りであるにつけても山陰道をはるばるの
旅なので都の方々への名残は惜かった
とはいえ勅命であるため急ぎ下向される。
山の家々をつなぐ道を通りながら遠くの山の雲が道行く人
を影に隠し、高く伸びる松を揺らす風が旅人を夢
から引き戻すというのは、このような時間をいうのだろうか。「色有るては分(わか)ち易し残雪の
底。情(こころ)無くしては弁(わきま)へ難し夕陽(せきよう)の中*」という歌にあれこれ旅の
心をなぐさめているうちに日数はだんだんと経ち、
一宮に到着して参拝を終えてたのであるが、それはすばらしい儀式であった。
〔「因幡堂縁起絵巻」(4)おわり〕