【『逃げ上手の若君』全力応援!】(153)無自覚すぎてヤバイ足利尊氏を隠す直義と隠さない師直、初登場から148話目でフルネームが明かされて七支刀で「御」責めにあう細川顕氏って……
前回、合理精神の持ち主である高師直が、雫のことを「物の怪のガキ」と言ってやけにあっさり受け入れたなあ(……だから、無駄に反撃することもなく、執事のプライドマウント合戦になったのか!?)などと不思議に思っていましたが、妹から鋭いツッコミを受けました。ーー〝尊氏がバケモンだからじゃないの?〟
第153話で、妹のこの答えが大正解だったのが判明!(……って、私が肝心なことを見落としていただけですね。こんな大物が常にそばにいるのだから、雫の存在なんて師直にとっては余裕で想定内なのですね、きっと。)
「ダラアアアア」
「こんなもん よくいつも欲しがるなあ」
「拙者も時々自分が何をしてるのかと自問しますが」
部屋の外からたまたま聞いちゃった人がいたら、〝え、なに? ええっ!?〟みたいな会話(笑)。まさに、前回の「四六時中ファ~」なオッサン主君と執事の濃密な関係ぶりが伺えます。
それにしても足利尊氏、脳天割れて目玉だらけなんですけど(汗)。師直には見えているのですかね、このホラーな何かが。護良親王は明らかに見えていましたね(第37話「改革1334」)。また、尊氏の弟・直義も、兄が尋常ではないことに薄々感づいています。
「《《これ》》の正体に拙者は興味がありません」として、目的のためには邪悪だと理解しつつそれを利用する師直に対して、「正体」がわからないながらも、兄を蝕む未知の力に恐怖を覚える直義という、対照的な二人の構図も気になるところです。ーー師直は、どう見ても刃が「急所に刺さった」尊氏を「問題ない」の一言で片づけ、周囲に隠そうともしませんでした(第105話「天下人1335」)。一方、直義は尊氏の「御仏の絵」を見て恐怖し、内密に処理しようとしていました(第25話「神力1334」)。師直と直義の対立は予想されたものであったのが伺えます。
そして、「さっき言った物の怪の娘興味があるな 捕らえて来てくれ」と言って、無邪気に師直におねだりする尊氏は、自分が「物の怪の娘」以上の存在だなんて自覚がまるでないのだと推測されます。(おそろしや!)
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尊氏や師直に対して、北畠顕家軍は人間臭い人であふれかえっています。
今回、春日顕国の策に「おおおお」と言って感嘆する自軍の脇で「ギン」となる宇都宮公綱さんで吹きました。先日YouTubeの動画で、認知症の検査で親を病院に連れていくのだけども、何度も受けて慣れてしまったり知らない人の前では一瞬正気に戻ったりするので(検査の意味がなくて)困る、といったコメントがあったのを思い出してしまいました。ここでの「ギン」も当人でないとわからないのですが(いや、本人も無自覚か……)、春日卿の「冴えた策」が刺激となって、宇都宮さんの脳が活性化したのだと解釈することにしました(宇都宮さんが覚醒するくらい「冴えた策」だったということで……)。
そして、結城宗広さんの無邪気なおねだりぶりが、ヤバイのに妙にカワイイ……。その際、結城さんとは違う欲望(?)解放をしている人たちが出現しています。「「歩く作画手間」とか」は、美女通訳さんが作品世界の外から〝神〟の声を聞いたのでしょうか(笑)。美女通訳さん、やはりかなり有能ですね。今回は、顕家ディスりの解放回なのでしょうか。春日顕国も「せっかちな顕家卿」の一言をさりげなく会話に盛り込んでいて、聞き逃さなかった顕家が白目を剥いていましたね。美女通訳さんの後ろで、雫も何か言いたげです(どうやら、雫には神力で美女通訳さんと同じ〝神〟の声が聞こえるようです)。
「作画手間」と結城さんが今回妙にカワイイその真相は、巻末の「作者コメント」をご覧ください。皆さんは、中身が顕家の結城さん、中身が結城さんの顕家だったら、どう思われますか。前者は説得力に欠けて奥州武士にも読者にもボコボコにされ、後者は少年誌NG必至な予感……(人は見た目が9割説を私は支持します)。
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春日顕国(かすがあきくに)
? - 一三四四
南北朝時代、東国で南党の糾合に生涯をかけた武将。世系に諸説あるが、村上源氏顕行の子と見るのが有力である。侍従・少将・中将と昇進し、のちに顕時と改名。鎮守府大将軍北畠顕家の下で活躍し、延元三年(北朝暦応元、一三三八)西上して男山に籠ったが、翌年東国に戻り北畠親房を援けた。〔国史大辞典〕
『国史大辞典』から春日顕国の項目を引用しましたが、後半部はカットしました。警戒心を抱きつつ顕家の軍に加わった時行同様、最初は南朝の諸将にはあまり思い入れがありませんでした。しかし、作品が展開するうちに、春日卿のキャラとしての魅力は増しに増しているので、辞書などでその最期を知るのは切なくなります(すでに亡くなった歴史上の人物ではあるのですが……)。これぞ一流の漫画家の力量、こと松井先生のキャラ作りとストーリー展開には、気づかないうちのその世界へと引き込まれてしまっているのに、ふと気づかされる瞬間があります。
そして、楠木正成の遺児・正行、正時、のちの正儀の楠木三兄弟が登場しました。かつて正成が「母に似て」と言った長男・次男はきりっとしていますが、三男は正成の「ヘコヘコ」な雰囲気をかもし出していますね。彼らは南北朝時代のヒーローですし、颯爽と再登場するはずなのでいずれまた詳しく取り上げたいと思います。
ヒーローもいいのですが、モブや地味、報われない系キャラ好きの私としては、結城さんの七支刀で「御」責めにあった細川顕氏に注目です。第5話ですでに登場していたはずなのに、第150話でやっと名字が明かされ、今回第153話でフルネームが明かされるも、師直に「見てるだけ」とか「ブニョンブニョン」されている情けない役どころです。
「弱将は生かして帰れ 内紛の火種にでもなれば儲けものよ」という顕家のセリフは、今後の顕氏の師直との確執や楠木正行との戦闘、尊氏と直義に生じる亀裂といったところで、これでもかの〝冴えなさ〟を発揮することを暗示しているようです。
以下は、古典『太平記』での八幡山とその周辺での戦い(日本古典文学全集の現代語訳を引用)です。
顕家卿とその弟春日少将顕信朝臣は、このたび奈良から逃れた敗軍の士卒を集め、和泉の国境あたりに打って出て近隣を侵して略奪し、すぐさま八幡山に陣を構えて、その勢いは今にも京都を攻め落しそうに見えた。このために京都では再びあわて騒いで、急いで討手の大将を派遣せよと、厳しく命令を下されたけれども、先の合戦で忠功が抜群であった桃井兄弟ですらも、褒賞の沙汰もない。ましてそれ以下の者には褒賞などあるはずがないと考えて、出兵する武士はついにまったくいなかったので、これではどうしようもあるまいと、師直が一族をあげて出陣なさったので、諸軍勢はこれに驚いて、我も我もと、馳せ下った。そこで、その軍勢は雲霞のような大軍で、八幡山の麓一帯にわずかの土地も残さず、満ちあふれた。けれどもこの砦の堀は厳重で、勇猛な兵士たちが全員志を一つにして立て籠っていることなので、寄せ手は合戦のたびごとに敗れていると伝えられた。
※その弟春日少将顕信朝臣…全集の頭注には「春日顕国と考えるのが正しいようだ」とある。
※桃井兄弟…桃井直常・直信兄弟。全集が底本としている天正本では兄弟で活躍している。
先の戦いで恩賞のなかった桃井直常が参戦をボイコットした影響が周囲にも及び、師直が出陣してやっと周囲も動いたことになっています。
上記引用以降の省略した部分に、「高家氏族を尽くし、大家群兵を起すといへども、合戦を利を失ふと聞く」とあります。「家柄がよい武将が一家をあげ、また有力な武将が大軍を動かしても、合戦は旗色が悪いと聞いて」という意味だということです。
『太平記』には時々コンプラや忖度が働いていますが、「高家氏族」「大家群兵」とは、「足利魂」の旗のもと出撃するも、顕氏のように「ドッ」「カキィン」で〝終了〟した一門への配慮だったりするのかと想像してしまいました。
※「高家氏族」の「高家」は「高師直」の「高」ではなく、「家柄がよく、権勢のある家」の意味。「大家」も「高家」に同じ。
〔日本古典文学全集『太平記』(小学館)を参照しています。〕
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