【鳥取寺社縁起シリーズ】「因幡堂縁起絵巻」(5)
【鳥取寺社縁起シリーズ】第二弾として、「因幡堂縁起絵巻」詞書部分の注釈・現代語訳をnoteで連載いたします(月1回予定)。
〔冒頭の写真は、鳥取県立博物館『はじまりの物語ー縁起絵巻に描かれた古の鳥取ー』の表紙(「因幡堂縁起絵巻」の一場面)です。〕
■寺社縁起本文・注釈・現代語訳
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本文(翻刻)は、『企画展 はじまりの物語ー縁起絵巻に描かれた古の鳥取ー』〔鳥取県立博物館/2008年10月4日〕の巻末「鳥取県関係寺社縁起史料集」のものを使用しています。
※「因幡堂縁起絵巻」の概要は第1回をご覧ください。
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【 第二段 】
〈本文(翻刻)〉
行平おもはさるに俄に重病の事
出来たるに遠國のならひ醫師をた
つねらるに叶はすはからさるに君をも
二たひ拝し奉らす二親をもかさねて
見すしてむなしく田舎のちりとならむ
事を思て現病たちまちに平愈し
帰洛の無為ならむ事をひとへに三宝
に祈誓ありけるに其夜の夢に貴僧
一人来ていはく汝病をのそかむと思は
當国賀留津にうき木あり衆生化度
のために佛生國より来れりこれを引
たてまつるへしと仰らると思ひて
夢さめにけり
→行平思はざるに俄に重病の事
出来たるに遠國のならひ醫師をた
づねらるに叶はず。はからざるに君をも
二たび拝し奉らず、二親をも重ねて
見ずして、むなしく田舎のちりとならむ
事を思ひて、現病たちまちに平愈し
帰洛の無為*ならむ事をひとへに三宝*
に祈誓ありけるに其の夜の夢に貴僧
一人来ていはく「汝病を除かむと思はば
當国賀留津*にうき木*あり。衆生*化度*
のために佛生國*より来れり。これを引
たてまつるへし」と仰らると思ひて
夢さめにけり。
〈注釈(語の意味)〉
*無為(むい)…①自然のままで、作為のないこと。②因縁によって生成されたものでないもの。
*三宝(さんぼう)…①衆生が帰依すべき三つの宝。仏・法(仏の説いた教え)・僧(仏に従う教団)の称。②仏の異称。
*賀留津(かろつ)…賀留(賀露)の津。
*うき木…水に浮かんでいる木片。流木。〔全訳古語辞典〕
*衆生(しゅじょう)…いのちあるもの。生きとしけるもの。一切の生物。一切の人類や動物。六道を輪廻する存在。有情(うじょう)。
*化度(けど)…衆生を教え導いて救うこと。教化済度(きょうけさいど)のこと。
*佛生=仏生(ぶっしょう)…釈迦の誕生。
※特に記載がない場合は『広辞苑』による。
〈現代語訳〉
行平は期せずして突然重い病に
かかったのであるが、遠国にはよくあることで医者を探し求め
るもかなわなかった。思いがけない出来事によって帝に二度と
拝謁もならず、両親にもう一度
会うこともなく、むなしく地方で死を迎える
ことを思うと(たまらず)、この病がすぐに治って
都に差し障りなく戻れることをひたすらに三宝
に祈って誓いを立てた。すると、その夜の夢に貴い僧が
一人現れて「お前が病を退けようと思うならば
この国の賀留津に流木がある。衆生をお導きくださる
目的があって仏の生国から流れ着いたものだ。これをお引
きあげ申し上げよ」とおっしゃった。そう思ったところで
(行平は)夢は目覚めた。