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【鳥取寺社縁起シリーズ】「因幡堂縁起絵巻」(10)

 【鳥取寺社縁起シリーズ】第二弾として、「因幡堂縁起絵巻」詞書部分の注釈・現代語訳をnoteで連載いたします(月1回予定)。

 〔冒頭の写真は、鳥取県立博物館『はじまりの物語ー縁起絵巻に描かれた古の鳥取ー』の表紙(「因幡堂縁起絵巻」の一場面)です。〕


■寺社縁起本文・注釈・現代語訳

__________________________________  本文(翻刻)は、『企画展 はじまりの物語ー縁起絵巻に描かれた古の鳥取ー』〔鳥取県立博物館/2008年10月4日〕の巻末「鳥取県関係寺社縁起史料集」のものを使用しています。

 ※「因幡堂縁起絵巻」の概要は第1回をご覧ください。


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【 第六段(11行目から最後まで) 】
ゆめのさむる程に幾ほとなく門を叩者あり誰人そ
ととふに因幡國かるの津に侍し僧なりと仰られけれは
行平卿おとろき浄衣を着し門をひらき見奉
れはまさしく海より引上奉し尊像也熙 の思を
なし手つから室内に安置し奉れは中門へ出
させ給不思議に存するあひたにまとろむともなきに
夢に見たてまつるやう内は汗穢不浄ノ所也これは
清にしてかやうに御出あると見奉るそ奇特なりける
其夜虚空にこえありて高辻烏丸に佛生國ヨリ
薬師像来給へり結縁すへしと触廻けれは
不思議のおもひをなし貴賤歩をはこひ男女
群をなす車は轅をめくらしえす馬は蹄を立
かね人はくす※をめくらしえす門前市をなす事
おひたたし

→夢の覚むる程に幾ほどなく門を叩く者あり。「誰人ぞ」
と問ふに「因幡國かるの津に侍りし僧なり」と仰せられければ
行平卿驚き浄衣*を着し門を開き見奉
ればまさしく海より引上奉し尊像なり。熙怡*の思ひを
なし手づから室内に安置し奉れば中門*へ出
させ給ふ。不思議に存ずるあひだにまどろむともなきに
夢に見奉るやう「内は汗穢*不浄ノ所なり。これ*は
清にしてかやうに御出である」と見奉るぞ奇特*なりける。
其の夜、虚空*に声ありて「高辻烏丸に佛生*國より
薬師像来給へり。結縁すべし」と触れ廻りければ
不思議の思ひをなし貴賤歩を運び、男女
群をなす。車は轅*をめぐらしえず、馬は蹄を立て
かね、人はくびす*をめぐらしえず。門前市をなす*事
おびたたし。

※テキストの本文(翻刻)は「くす」となっているが、それでは意味が通じない。絵巻本体の写真を確認し、「く」と「す」の間に「ひ」があり、「くひす」ではないかと推測した。

〈注釈(語の意味)〉
*浄衣(じょうえ)…白地の狩衣(かりぎぬ)。神事・祭礼の礼服として着用する。〔全訳古語辞典〕
*熙怡(きい)…やわらぎ、よろこぶこと。なごやかに楽しむこと。〔日本国語大辞典〕
*中門(ちゅうもん)…寝殿造で、東西の対屋(たいのや)から釣殿に通ずる廊の中ほどにある門。その廊を中門廊という。

寝殿造

          〔図は『日本国語大辞典』の「寝殿造」の項目より〕*穢(え)…けがれ。きたないもの。よごれ。みにくい行い。〔漢字源〕
*これ…対称。相手をさしていう。あなた。〔日本国語大辞典〕
*奇特(きとく・きどく)…特にすぐれて珍しいこと。また、心がけや行いがすぐれてほめるべきものであること。殊勝。
*虚空…大空。空間。〔全訳古語辞典〕
*佛生=仏生(ぶっしょう)…釈迦の誕生。
*轅(ながえ)…(長柄の意)牛車(ぎっしゃ)・馬車などの前に長く平行に出した2本の棒。その前端に軛(くびき)を渡し、牛馬に引かせる。
*くびす…踵。足の裏の後部。かかと。きびす。重足(おもあし)。「踵をめぐらす」で「あともどりをする。引き返す。」という意味になる(=「踵を返す」)。
*門前市(もんぜんいち)をなす…その家に出入りする者の多いさまにいう。また、商売が繁盛しているさまをいう。門前に市をなす。
*おびたたし…さわがしい。大さわぎである。〔全訳古語辞典〕
 ※特に記載がない場合は『広辞苑』による。

〈現代語訳〉
夢から覚めるとほどなく門を叩く者があった。「誰なのか」
と尋ねると「因幡の国賀留の津におります僧です」とおっしゃったので
行平卿は驚いて白の礼服を着て門を開いて拝謁する
とまさに海から引き上げ申し上げた尊い像であった。よろこびの気持ちに
なって自分の手で室内に安置し申し上げると(像は)中門へお出
になった。不思議に存じ上げるとうとまどろむともなく
夢に見申し上げることには「家は汚れて不浄な場所です。あなたは
清浄なのでこのように(外へ)ご移りになった」と見申し上げるのは殊勝であるなあ。
その夜、大空に声がして「高辻烏丸に仏の生国から
薬師像がいらっしゃった。結縁するがよい」と触れ回った。
不思議に思って身分の高い者も低い者も足を運び、男女が
群をなした。車は向きを変えることができず、馬は蹄を立ることができず、人は後戻りもできなかった。(行平邸に)多くの者が出入りして
大騒ぎである。
                  〔「因幡堂縁起絵巻」(10)おわり〕

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