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ギリシャのデフォルトと日銀の金融緩和(2015)

ギリシャのデフォルトと日銀の金融緩和
Saven Satow
Jul. 03, 2015

「私たち国の通貨を管理しているのです。中央銀行はそのために、人々の日々の生活にかかわっています。彼らの購買力を守る守護者なのです」。
アラン・グリーンスパン

 ギリシャのデフォルトの報に接すると、巨額の財政赤字を抱える日本は大丈夫なのかという不安がよぎる。しかし、日本国債は大部分が国内で消費されており、ギリシャと事情が違う。実際、格付けを下げながらも、金利は上がっていない。

 ただ、こうした楽観論を信じる前に、その国債の国内消費が果たして妥当なのか検討する必要がある。それが財政規律を緩めている一因であるからだ。特に、2013年から始まった日銀による大規模金融緩和の経済成長への効果を検証すべきである。

 国債を大量購入したのだから、金利上昇を抑えたことは確かだろう。10年物国債は金利のベースセッターである。しかし、日本は90年代からゼロ金利が続いている。景気低迷は金利のせいではない。金融緩和による経済成長への効果はない。

 成長したとしても、景気樹循環や財政出動の効果が大きければ、金融政策の意義は小さい。しかも、消費税の増税前のかけこみ需要が要因だった時期もある。

 景気が浮揚すると、金利も上がる。国債を発行して財政出動をして経済成長すれば、金利が上昇、政府の債務の利払いも増える。ところが、日銀が国債を大量購入しているので、金利の上昇は抑えられる。

 日本政府の債務はGDPのおよそ2倍である。それでも金利上昇せず、政府は国債を発行し続けている。日銀がその7割を引き受けているからだ。

 日銀は国債を売却できない。国債を売れば、金利が上昇する。利払いが増えるので、それは財政を圧迫してしまう。日銀は金融緩和をやめられない。日銀は政府の婢である。

 日銀が国債購入を進めれば、民間の金融機関もそれに倣う。国債は金利が低いので利益率は小さい。けれども、日銀が大量購入しているのだから不良債権にならないだろうと国債を買い進める。それは金融機関が民間企業へ融資する資金が減ることにつながる。民間融資は国債購入よりもリターンも大きいけれど、リスクも大きい。

 株式市場に資金が流れているのだから、金融緩和が潜在的経済成長を抑制していないという反論もあろう。しかし、日本の企業は中小零細が大半であり、非上場も多い。金融機関からの融資で資金調達をしているので、株式市場の活況を理由に擁護することはできない。

 円安を背景に輸出産業に投資することは、国債購入同様の安定志向でしかない。金融機関がこうした受け身の姿勢では、民間企業のまだ見ぬイノベーションを顕在化できない。将来の経済成長に技術革新が不可欠であるとすれば、潜在的それが失われてしまう。

 民間融資の横ばいないし減少は潜在的経済成長の抑制を招く。経済成長のための政策であるはずがその御逆の効果をもたらす。日銀による国債の大量購入がなければ、日本はもっと成長できたはずである。

 銀行は貯蓄を利用して国債を買っている。国民の預貯金が政府の赤字に充てられている。そこからインフレ・タックスによる債務解消が主張される。インフレは債権者から債務者への富の移行である。国債において債権者は国民、債務者は国である。それなら、インフレは税と実質的に同じだとなる。しかし、税は制度であって、インフレは経済現象であるから、両者は異なる。こういうことが最近公然と唱えられる。

 日銀は金融緩和がインフレ期待を刺激すると主張する。しかし、インフレには金利上昇がつきものだ。異次元緩和で金利が上がらないと予想されるのに、なぜ人々がインフレを期待するのか疑問である。日銀が出口戦略を描けず、金利上昇を抑制するための政策を続けると市場は予想するだろう。

 政府にすれば、兎にも角にも、金融緩和によって国債の金利が上がらないのだからいいと思っているかもしれない。しかし、日銀が国債購入に偏重すれば、そのバランスシートは悪化する。金利が低いので、日銀の利益率は小さい。日銀の総資産利益率は0.3%でしかない。日本国債より金利の高い米国債を買い入れるFRBは2%台である。その他の資金も国債用に割かれる。しかも、国債は売れない。国債を買うための資金も減っていく。

 国債が国内で消費されているから大丈夫と楽観視はできない。やはり財政規律を構築した上で再建することが必要だ。それが潜在的経済成長を顕在化させる。

 こうして見ると、日銀はやってはならない政策をしてしまったことになる。なるほど日本は、巨額の財政赤字を抱えていても、ギリシャと事情が違う。欧州中央銀行は日銀の様な危ない橋を渡らないだろう。
〈了〉
参照文献
滝田洋一、「0.3%の日銀ROAが物語る、黒田緩和の懐具合」、『日本経済新聞電子版』、2015年6月24日 6時30分配信
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO88356470S5A620C1000000/


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