Saven Satow

批評家

Saven Satow

批評家

最近の記事

ギリシャのデフォルトと日銀の金融緩和(2015)

ギリシャのデフォルトと日銀の金融緩和 Saven Satow Jul. 03, 2015 「私たち国の通貨を管理しているのです。中央銀行はそのために、人々の日々の生活にかかわっています。彼らの購買力を守る守護者なのです」。 アラン・グリーンスパン  ギリシャのデフォルトの報に接すると、巨額の財政赤字を抱える日本は大丈夫なのかという不安がよぎる。しかし、日本国債は大部分が国内で消費されており、ギリシャと事情が違う。実際、格付けを下げながらも、金利は上がっていない。  ただ

    • 昔ばなしの村落空間(2015)

      昔ばなしの村落空間 Saven Satow Sep. 12, 2015 「真の文明は、山を荒らさず、川を荒らさず、村を破らず、人を殺さざるべし」。 田中正造  多くの昔ばなしの舞台は近世の村落です。具体的な地名が挙げられることもありますが、「あるところ」と不定の場合も少なからずあります。当時の村落の空間が映像媒体で表現されていますけれども、それを見ても全体像までわかっているかどうかは疑問です。昔ばなしはそれを暗黙の前提にしています。現代の読者は村落の空間構造を明示的に知っ

      • 政党文化と政党支持(2024)

        政党文化と政党支持 Saven Satow Oct. 29, 2024 「女らしく黙っていろ!」 ビュレント・アルンチ  有権者は政策で政党支持を決めていない。全員がそうだというわけではないが、その大きなトレンドが認められる。有権者は政党の文化に基づいてそれを支持している。  厚い支持層だったラストベルトの労働者が民主党から離れたことがドナルド・トランプの台頭を許した要因の一つとして、ジョー・バイデン政権は彼らのための政策を実施する。それは特に大学の学位を持たない男性労

        • アメリカの経済再建(2011)

          アメリカの経済再建 Saven Satow Sep. 22, 2011 「理論経済学が反動主義者の専売特許であっていい理由はない」。 ヘンリー・J・ダヴェンポート 第1章 低金利政策  2011年9月1日、合衆国政府は来年の平均失業率が9.0%となる見通しを発表する。この値は近年の大統領選挙の時期としては最も高い。バラク・オバマ大統領への支持率は、この値に呼応するように、低迷している。最新のギャラップ社の調査では、43%にとどまっている。  連邦政府も手をこまねいていた

        ギリシャのデフォルトと日銀の金融緩和(2015)

          識字教育は終わらない(2)(2024)

          6 文字の登場  文字の読み書きは学校教育を通じないと習得するのが難しい。そう考えると、文字の共時的・通時的共有は教育制度が可能にしている。そういった教育システムを持たなければ、たとえ生まれたとしても、文字は存続できない。  四大文明で文字が使用されていたとすれば、そこにはそれを教え学ぶ教育システムが機能していたことを推測させる。比較的規模の大きい国家が政治・宗教・経済を維持運営するために文字を必要だとしても、インカ帝国はそれを持っていない。支配者層はキープと呼ばれる色鮮や

          識字教育は終わらない(2)(2024)

          識字教育は終わらない(1)(2024)

          識字教育は終わらない Saven Satow Aug. 03, 2024 「手紙を書こうにも御存じの無筆だろう」。 夏目漱石『道草』 1 『35年目のラブレター』  還暦を過ぎた男が夜間中学に通い、できなかった読み書きを学び、妻に感謝の手紙を書く。2025年3月公開予定の映画『35年目のラブレター』は実話を元にしている。その手紙は2003年、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)が募集したコンテスト『60歳のラブレター』で金賞に選ばれている。  和歌山県で生まれ育った男性は

          識字教育は終わらない(1)(2024)

          天罰としての天災(2015)

          天罰としての天災 Saven Satow Jun. 18, 2015 「愛する者よ、自ら復讐すな、ただ神の怒に任せまつれ。録して『主いひ給ふ、復讐するは我にあり、我これに報いん』とあり」。 『ローマ人への手紙』12:19  2015年6月7日、石原慎太郎元東京都知事は、突然、「頭が重い」と体調不良を訴えています。緊急搬送されて入院しましたが、異常なしとすぐに退院しています。まるでキツネにつままれたような話です。  3・11の際、その石原元都知事は「津波は天罰だ」と発言し

          天罰としての天災(2015)

          西田幾多郎、あるいは暗黙知の研究(2)(2010)

          第2章 西田哲学の展開と限界  西田は、『善の研究』以降、大著よりも比較的短いエッセイによって思索を深めていく。しかし、暗黙知が中心的テーマだったことは変わりがない。彼の主要概念も暗黙知から説明し得る。  「絶対無」は、『私の絶対無の自覚的限定というもの』(1931)などのテキストから、次のように規定できる。個体としての自己は一般者から限定されない非合理的なものである。このような個体を成立している場は、限定していないままで限定する弁証法的一般者である。それは有に対してその存

          西田幾多郎、あるいは暗黙知の研究(2)(2010)

          西田幾多郎、あるいは暗黙知の研究(1)(2010)

          西田幾多郎、あるいは暗黙知の研究 Saven Satow Sep. 28, 2010 「イマダモッケイタリエズ」 双葉山定次 第1章 『善の研究』  ついさっきまでよろよろとふらつき、足ばかりついていたのに、突然、ペダルを続けざまにこげるようになる。よほどの心身の偏重が起きない限り、その人は自転車の乗り方をもう忘れない。ところが、それを言葉で説明することができない。言語による知識として習得したわけではなく、経験を通じてコツを獲得したからである。  西田幾多郎はそれを「純

          西田幾多郎、あるいは暗黙知の研究(1)(2010)

          国会から叩き出せ!(2015)

          国会から叩き出せ! Saven Satow Sep. 24, 2015 「猿は木から落ちても猿だが、代議士は選挙に落ちればただの人だ」。 大野伴睦  その光景は『スミス都へ行く』の議会演説シーンに重なって見える。奥田愛基SEALDsメンバーは、2015年9月15日の参院特別委員会中央公聴会において、安保法案について語る。  「あのー、すいません。先ほどから、寝ている方がたくさんおられるので、もしよろしければ話を聞いてほしい」として、「ボクも2日間くらい寝られなかったので

          国会から叩き出せ!(2015)

          新小日本主義のために(2016)

          新小日本主義のために Saven Satow May, 22, 2016 「私がここで第一に訴えたのは、国の独立と安全を防衛するのにいちばんたいせつなことは、国内を分裂させないということである」。 石橋湛山『日本防衛論』  2011年3月11日に始まる災害は日本社会に「持続可能性」が取り組まねばならない中心的テーマと認知させる。社会の上部構造も下部構造も持続可能性によって再構成する必要に迫られている。  けれども、3・11は新たな課題を突きつけたわけではない。それらは、

          新小日本主義のために(2016)

          他人行儀としての挨拶(2015)

          他人行儀としての挨拶 Saven Satow Jul. 08, 2015 「みんなはしいんとなってしまいました。やっと一郎が『先生お早うございます。』と言いましたのでみんなもついて、『先生お早うございます。』と言っただけでした。『みなさん。お早う。どなたも元気ですね。では並んで。』先生は呼び子をビルルと吹きました。それはすぐ谷の向こうの山へひびいてまたビルルルと低く戻もどってきました。 宮沢賢治『風の又三郎』  挨拶は内容ではなく、発せられることに意味があります。人間関係

          他人行儀としての挨拶(2015)

          体罰と身体知(2013)

          体罰と身体知 Saven Satow Nov. 05, 2013 「月に向かって打て!」 飯島滋弥  体罰のニュースが後を絶たず、さすがに改革の動きが出ている。2013年11月05日付『読売新聞』によると、学校以外の地域のスポーツチームなどで起きる体罰をなくそうと神奈川県体育協会は来年4月から、体罰相談窓口を設置する方針を固めている。週に数回、電話の受付時間を設ける他、メールやファクスでも相談に応じる。従来は寄せられた相談に個別対応してきたが、今後は県体協に加盟する各市町

          体罰と身体知(2013)

          理論と実践(2016)

          理論と実践 Saven Satow Jan. 20, 2016 「起源的には実践は理論に先行する。しかし、一度理論の立場にまで自己を高めると理論は実践に先行し得る」。 ルードヴィヒ・フォイエルバッハ  理論と実践のあるべき関係は古くから論じられている。それはしばしば思考と行動に置き換えられる。無謬であるとして理論を絶対化し、実践を束縛する。逆に、理論を机上の空論として実践を絶対視する。いずれも不適当だろう。  通常、理論と実践の関係は大きく二つある。一つは実践を抽出して

          理論と実践(2016)

          毒もみと川のエコロジー(2015)

          毒もみと川のエコロジー Saven Satow Jun. 17, 2015 「エジプトはナイルの賜物」。 ヘロドトス『歴史』  近代以前の日本は環境にやさしい生活をしていたとしばしば言われます。けれども、民話の中には環境破壊を戒める物語が少なからずあります。民衆の間で語り継がれてきたのですから、近代ほどではないにしろ、実際に起きていて、問題視されていたと考えられます。その中に毒もみをめぐる者があります。  毒もみは現代の日本ではあり得ない漁法です。植物の根から抽出した毒

          毒もみと川のエコロジー(2015)

          「雉も鳴かずば撃たれまい」が伝えるもの(2015)

          「雉も鳴かずば撃たれまい」が伝えるもの Saven Satow Sep. 03, 2015 「小豆まんま食~べた~」  ジャン・ヴァㇽジャンは貧困に耐えられず、1個のパンを盗んでしまいます。けれども、彼には、罪と不釣り合いの無情な人生がその後に待ちかまえているのです。ヴィクトㇽ・ユーゴによるこの『レ・ミゼラブル』はフランス文学を代表する大河小説です。今日では、ミュージカルでも知られています。  ほんのわずかな盗みがむごいことを人にもたらしてしまう物語が日本の昔話にもあり

          「雉も鳴かずば撃たれまい」が伝えるもの(2015)