Saven Satow

批評家

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最近の記事

持続可能社会と詩(1)(2010)

持続可能社会と詩 Saven Satow Jun. 30, 2010 “Study nature not books”. Jean Louis Rodolphe Agassiz 第1章 「荒地」の消失  1947年9月、月刊誌『荒地』が創刊される。終戦を機に、雑誌の復刊・創刊ラッシュが起きるが、紙の統制が1950年まで続き、その対象外だった仙花紙を用いたカストリ雑誌が人気を博している。こうした時代的・社会的背景の下でスタートした現代詩の専門誌が埋没することはない。トマス・

    • デジタル技術と教育(2010)

      デジタル技術と教育 Saven Satow Jul. 21, 2010 「人間の心の力のひとつは、夢見ること、想像すること、将来の計画を立てることである。心のこの創造的な飛翔力のおかげで、思考と認知は情動を解き放ち、次にはそれ自身を変化させるのである」。 ドナルド・A・ノーマン『エモーショナル・デザイン』  学校現場にコンピュータが導入され、それをめぐって教師と児童・生徒との関係が転倒している。デジタル機器の操作に関して、教師以上に児童・生徒の方が通じていることが少なくな

      • ハリス敗北と家父長主義(2024)

        ハリス敗北と家父長主義 Saven Satow Nov. 16, 2024 “But a candidate who won’t respect your vote unless it is for him, a candidate who will send his followers to storm the Capitol while he watches with a Diet Coke, a candidate who has shown no ability t

        • 共有への意思(2010)

          共有への意志 Saven Satow Jul. 21, 2010 「来たか長さん待ってたほい」。 夏目漱石『道草』  2010年7月12日、国内大手5社が2010年上半期のビール系飲料の出荷量を発表している。それによると、二つの消費傾向が見られる。一つは安価な無麦芽の発泡アルコール飲料が始めてシェア三割を超えたことであり、もう一つはプレミアム・ビールが堅調だということである。老舗中の老舗エビス・ビールが0.5%増の457万ケース出荷されているのが眼を引く。  エビスの復

          公開と参加(2010)

          公開と参加 Saven Satow Aug. 05, 2010 「民主主義とは、たんなる政府の形態ではない。一つの集団生活の形式であり、相互の経験を各員が共同に理解し合うような生活形式である」。 ジョン・デューイ『民主主義と教育』  鹿児島県阿久根市の竹原信一市長が議会を召集せず、専決処分を繰り返している。彼は、以前から、中央アジアの独裁者差ながらの奇抜な政策と無分別な言動を行い、市政を混乱させている。  しかし、彼のような独裁首長が登場する下地は出来上がっている。独善

          公開と参加(2010)

          ギリシャのデフォルトと日銀の金融緩和(2015)

          ギリシャのデフォルトと日銀の金融緩和 Saven Satow Jul. 03, 2015 「私たち国の通貨を管理しているのです。中央銀行はそのために、人々の日々の生活にかかわっています。彼らの購買力を守る守護者なのです」。 アラン・グリーンスパン  ギリシャのデフォルトの報に接すると、巨額の財政赤字を抱える日本は大丈夫なのかという不安がよぎる。しかし、日本国債は大部分が国内で消費されており、ギリシャと事情が違う。実際、格付けを下げながらも、金利は上がっていない。  ただ

          ギリシャのデフォルトと日銀の金融緩和(2015)

          昔ばなしの村落空間(2015)

          昔ばなしの村落空間 Saven Satow Sep. 12, 2015 「真の文明は、山を荒らさず、川を荒らさず、村を破らず、人を殺さざるべし」。 田中正造  多くの昔ばなしの舞台は近世の村落です。具体的な地名が挙げられることもありますが、「あるところ」と不定の場合も少なからずあります。当時の村落の空間が映像媒体で表現されていますけれども、それを見ても全体像までわかっているかどうかは疑問です。昔ばなしはそれを暗黙の前提にしています。現代の読者は村落の空間構造を明示的に知っ

          昔ばなしの村落空間(2015)

          政党文化と政党支持(2024)

          政党文化と政党支持 Saven Satow Oct. 29, 2024 「女らしく黙っていろ!」 ビュレント・アルンチ  有権者は政策で政党支持を決めていない。全員がそうだというわけではないが、その大きなトレンドが認められる。有権者は政党の文化に基づいてそれを支持している。  厚い支持層だったラストベルトの労働者が民主党から離れたことがドナルド・トランプの台頭を許した要因の一つとして、ジョー・バイデン政権は彼らのための政策を実施する。それは特に大学の学位を持たない男性労

          政党文化と政党支持(2024)

          アメリカの経済再建(2011)

          アメリカの経済再建 Saven Satow Sep. 22, 2011 「理論経済学が反動主義者の専売特許であっていい理由はない」。 ヘンリー・J・ダヴェンポート 第1章 低金利政策  2011年9月1日、合衆国政府は来年の平均失業率が9.0%となる見通しを発表する。この値は近年の大統領選挙の時期としては最も高い。バラク・オバマ大統領への支持率は、この値に呼応するように、低迷している。最新のギャラップ社の調査では、43%にとどまっている。  連邦政府も手をこまねいていた

          アメリカの経済再建(2011)

          識字教育は終わらない(2)(2024)

          6 文字の登場  文字の読み書きは学校教育を通じないと習得するのが難しい。そう考えると、文字の共時的・通時的共有は教育制度が可能にしている。そういった教育システムを持たなければ、たとえ生まれたとしても、文字は存続できない。  四大文明で文字が使用されていたとすれば、そこにはそれを教え学ぶ教育システムが機能していたことを推測させる。比較的規模の大きい国家が政治・宗教・経済を維持運営するために文字を必要だとしても、インカ帝国はそれを持っていない。支配者層はキープと呼ばれる色鮮や

          識字教育は終わらない(2)(2024)

          識字教育は終わらない(1)(2024)

          識字教育は終わらない Saven Satow Aug. 03, 2024 「手紙を書こうにも御存じの無筆だろう」。 夏目漱石『道草』 1 『35年目のラブレター』  還暦を過ぎた男が夜間中学に通い、できなかった読み書きを学び、妻に感謝の手紙を書く。2025年3月公開予定の映画『35年目のラブレター』は実話を元にしている。その手紙は2003年、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)が募集したコンテスト『60歳のラブレター』で金賞に選ばれている。  和歌山県で生まれ育った男性は

          識字教育は終わらない(1)(2024)

          天罰としての天災(2015)

          天罰としての天災 Saven Satow Jun. 18, 2015 「愛する者よ、自ら復讐すな、ただ神の怒に任せまつれ。録して『主いひ給ふ、復讐するは我にあり、我これに報いん』とあり」。 『ローマ人への手紙』12:19  2015年6月7日、石原慎太郎元東京都知事は、突然、「頭が重い」と体調不良を訴えています。緊急搬送されて入院しましたが、異常なしとすぐに退院しています。まるでキツネにつままれたような話です。  3・11の際、その石原元都知事は「津波は天罰だ」と発言し

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          西田幾多郎、あるいは暗黙知の研究(2)(2010)

          第2章 西田哲学の展開と限界  西田は、『善の研究』以降、大著よりも比較的短いエッセイによって思索を深めていく。しかし、暗黙知が中心的テーマだったことは変わりがない。彼の主要概念も暗黙知から説明し得る。  「絶対無」は、『私の絶対無の自覚的限定というもの』(1931)などのテキストから、次のように規定できる。個体としての自己は一般者から限定されない非合理的なものである。このような個体を成立している場は、限定していないままで限定する弁証法的一般者である。それは有に対してその存

          西田幾多郎、あるいは暗黙知の研究(2)(2010)

          西田幾多郎、あるいは暗黙知の研究(1)(2010)

          西田幾多郎、あるいは暗黙知の研究 Saven Satow Sep. 28, 2010 「イマダモッケイタリエズ」 双葉山定次 第1章 『善の研究』  ついさっきまでよろよろとふらつき、足ばかりついていたのに、突然、ペダルを続けざまにこげるようになる。よほどの心身の偏重が起きない限り、その人は自転車の乗り方をもう忘れない。ところが、それを言葉で説明することができない。言語による知識として習得したわけではなく、経験を通じてコツを獲得したからである。  西田幾多郎はそれを「純

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          国会から叩き出せ!(2015)

          国会から叩き出せ! Saven Satow Sep. 24, 2015 「猿は木から落ちても猿だが、代議士は選挙に落ちればただの人だ」。 大野伴睦  その光景は『スミス都へ行く』の議会演説シーンに重なって見える。奥田愛基SEALDsメンバーは、2015年9月15日の参院特別委員会中央公聴会において、安保法案について語る。  「あのー、すいません。先ほどから、寝ている方がたくさんおられるので、もしよろしければ話を聞いてほしい」として、「ボクも2日間くらい寝られなかったので

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          新小日本主義のために(2016)

          新小日本主義のために Saven Satow May, 22, 2016 「私がここで第一に訴えたのは、国の独立と安全を防衛するのにいちばんたいせつなことは、国内を分裂させないということである」。 石橋湛山『日本防衛論』  2011年3月11日に始まる災害は日本社会に「持続可能性」が取り組まねばならない中心的テーマと認知させる。社会の上部構造も下部構造も持続可能性によって再構成する必要に迫られている。  けれども、3・11は新たな課題を突きつけたわけではない。それらは、

          新小日本主義のために(2016)