昭島市の22年度施政方針とまちの未来
2022年2月28日、昭島市議会の22年(令和4年)の第1回定例会が開会した。本会議の冒頭で第1回定例会の会期を3月28日までとすることが決まった。その後、臼井伸介市長が22年度の施政方針を説明した(発言は「ですます調」だが、記事では饒舌になるため「だである調」としている)。
先般、計画の素案が示された民間企業による昭島駅北側の大規模開発について、臼井市長は「開発事業者に対して、『人間尊重』と『環境との共生』をまちづくりの理念に掲げる総合基本計画をはじめ、各分野別計画において示す本市のまちづくりについて『十分な理解』を求めるとともに、市民の皆様の意見を丁寧に聞き、そして尊重した計画を検討してもらうよう働き掛けを行っていく」と述べた。
この発言は、35分ほどの施政方針表明の終盤で述べられている。この発言に至るまでに述べられた施政方針には、昭島市のまちづくりの基礎となる理念が述べられている。ではどのようなことが語られたのであろうか。
■施政方針の冒頭で恒久平和への誓い
まず市長は施政方針表明の冒頭で、ロシアによるウクライナ侵攻、恒久平和の重要性に言及する。
「不幸にして犠牲になられた方に心から哀悼の意を表する。世界の恒久平和を願うものとして一刻も早い平和的解決を願うばかりだ」
「目指すまちづくりを進めるに当たり、まずもって平和な世の中が続くことが基本となる思いだ。本市が非核平和都市を宣言した昭和57年から40年の節目を迎えるに際し、改めて悲惨な戦争の記憶を忘れてはならない。戦争を繰り返してはならないと強く思う。ネバーギブアップの精神で長きにわたり、国内外で核兵器廃絶運動をけん引し、昨年お亡くなりになった坪井直(すなお)氏の姿勢のように真の平和な世界の実現には決して諦めない、絶え間ない努力が必要である。引き続き平和事業の推進に取り組み、市民の皆様と一歩一歩確実に歩みを進めていく」
ロシアのウクライナ侵攻でも核兵器の使用を念頭に置いた警戒態勢を敷くと報道され、国内でも一部から「非核三原則」を度外視した核の共有なる発言が取り沙汰される中、故坪井直氏が示した核のない平和な社会への実現へ決して諦めないという姿勢が、昭島市が目指す恒久的な平和社会の理念として示された。
■昭島市総合基本計画の重要性
次に22年度に始まる次の10年間における昭島市の第5次総合基本計画について、以下のような言及があった。
「飛耳長目を胸に現場主義を貫き、市民の皆様に何が大切かを一番に考えて、まちづくりにまい進してきた。本年は市長となって初めて取りまとめた昭島市総合基本計画の幕開けとなる重要な年となる。第4次総合計画から続く、『人間尊重』と『環境との共生』のまちづくりの理念のもと、『安全で利便性に富んだ都市基盤』と、『水と緑の自然環境が調和した快適で暮らしやすい住宅都市』としての地域特性を、次世代にしっかり引き継いでいく。新たな総合基本計画に掲げる将来都市像、『水と緑が育むふるさと昭島』の実現と『多様性を認め合える地域社会』の形成を目指し、魅力ある楽しい昭島への未来へ向けて持てる力の全てを傾注する所存だ」
「人間尊重」と「環境との共生」は、昭島市の向こう10年間のまちづくりの柱となる、極めて重要な理念といえる。
■脱炭素社会と「環境との共生」
いま世界は気候変動の危機に直面しており、2月28日には国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が第6次報告書の第2作業部会報告書を発表し、「気温2度上昇で水不足30億人も」と言う報道もなされた。昭島市の施政方針表明はIPCCの発表よりも時間的には前だったが、気候危機に対応するための脱炭素社会に向けた取り組みが述べられている。
「喫緊の課題である脱炭素社会、環境負荷低減への取り組みについて、『目標の実現まではまだ長い旅だが残された道は短い』という、COP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)のセレモニーでの、英国首相の言葉に象徴されるように、気候危機対策は人類の存亡をかけた戦いである。『環境との共生』を普遍のまちづくりの理念とし掲げる本市としては、『2050年カーボンニュートラル実現』を最重要課題の一つと位置付け、まずは『2030年カーボンハーフ』の実現に向け、新たな環境基本計画にのっとり市を挙げて取り組む。その第一歩として市民とみなさまとその強い意志を市内外に示すため、『気候非常事態宣言』『ゼロカーボンシティ表明』『再エネ100宣言(RE ACTION)』への参加を早期実施するとともに、民間企業と連携を図りながら、国が進める『脱炭素先行地域』のエントリーについても検討していく」
「気候非常事態宣言」を発出した自治体は116に上り、「ゼロカーボンシティ宣言」は既に598の自治体(都道府県含む)が表明している。
■人口維持に必要な「自然と調和する街」
昭島市の人口は2月1日時点で11万3,757人である。施政方針表明では、「世界に先駆けて到来した(日本)人口減少は深刻な課題になっている。本市は恵まれた自然環境を大切にしたまちづくりと、立川基地跡地の大規模開発により今後数年間は人口11万4,000人程度を維持する見込みとなっている」との説明があった。
しかし、「その先は全国的な傾向と同じく人口が減少すると見込まれる。この先も、本市の強みである転入超過を維持できるよう、新たな総合戦略のもと、安全かつ利便性に富んだ都市基盤と水と緑の自然環境が調和した住宅都市としての魅力を高め、住んでみたい、住み続けたいと思ってもらえるまちづくりを進めていく」と述べた。
気候危機で年々自然災害の脅威が増す中、「自然災害のリスクに平時から備えるために国や東京都と歩調を合わせて新たに策定する国土強靱化地域計画に基づき、あらゆる危機を可能な限り想定して安全安心の地域社会の構築に努めると共に、万が一大規模災害が発生しても都市として機能不全に陥らないまちづくりを進める」と強調した。
つまり、昭島市の考え方としては、「恵まれた自然環境を大切にしたまちづくり」と「水と緑の自然環境が調和した住宅都市としての魅力」が、他の自治体と比べて人口減少を遅らせ転入超過をもたらしている一因となっているというものだ。それだけ、自然環境がまちづくりにとって重要だといえる。
恵まれた自然環境→まちの魅力→住みたい・住み続けたい→まちへの愛着→ふるさと昭島→人口維持 というプロセスをたどることができ、昭島市にとっていかに自然環境が大切かがわかる。もちろんIPCCが述べているように昭島市に限らず世界規模でこれ以上、気候危機が脅威とならないよう自然や生物多様性の破壊は避けなければならない。
■文化・芸術・スポーツ振興とまちづくり
施政方針では文化・芸術とスポーツ振興にも言及している。
「文化・芸術を身近に味わってもらうため、開館から40年を迎える市民会館・公民館の舞台設備を改修するとともに、行政・企業・芸術家の三者による日本初のプロジェクトとして設置・運営されている『昭島・昭和の森 武藤順九彫刻園』をはじめ、市の誇れる文化・芸術資産を観光資源として活用を図るなど、観光・まちづくり・教育・産業・福祉など幅広い分野との連携を念頭に心豊かで潤いのある地域社会の形成に努めていく」
「スポーツの振興は、一般社団法人として歩み始めた昭島市スポーツ協会と連携する中、各協議団体の活動の支援や本市を拠点として活動しているジャパンラグビーリーグの加盟チームとのさらなる連携強化を進め、あわせて統合スポーツセンターの外壁等の改修工事を実施し、スポーツに親しみスポーツを通じて健康で明るい生活を営める環境の整備に努めていく」と述べた。
奇しくも「昭島・昭和の森 武藤順九彫刻園」や「フォレスト・イン昭和館」、「昭和の森ゴルフコース」という文化・芸術・スポーツの拠点は、冒頭にある再開発計画の対象エリアとなっている。
■快適で利便性に富んだまち
施政方針は一部を省略しているが、これらの内容で説明が進み、終盤へ入った。終盤では「快適で利便性に富んだまち」というテーマで説明する。
「引き続き、都市計画道路の整備、道路や公園の老朽化対策、深刻化が進む空き家問題等への対策をはかるとともに自然災害に強い都市基盤整備、ユニバーサルデザイン、地域環境に配慮した潤いとゆとりのある都市空間の整備をはかる。水道事業は、本市の宝である深層地下水100%の安全でおいしい水道水を将来に渡って安定供給することを基軸とし、深層地下水流動調査の結果をもとに深層地下水の起源とメカニズムを踏まえた地下水資源の保全と安全管理に努めるとともに、引き続き第二次昭島市水道事業基本計画の着実の推進と経営基盤のさらなる強化に取り組む」
「立川基地跡地昭島地区については、隣接する国営昭和記念公園が拡張され一体的な緑の空間が整備されるよう関係機関等に積極的に働き掛けるとともに東中神駅周辺の市街地とも一体となり、環境や景観に配慮する中でにぎわいと活気あふれ本市の東の玄関としてふさわしいまちづくりを進めていく」
そして、冒頭の昭島駅北側の再開発の説明へと続く。
「また民間企業による大規模開発が検討されている昭島駅北側については、開発事業者に対して、『人間尊重』と『環境との共生』のまちづくりの理念に掲げる総合基本計画をはじめ、各分野別計画において示す本市のまちづくりについて『十分な』ご理解を求めるとともに、市民の皆様の意見を丁寧に聞き、そして尊重した計画を検討してもらうよう働き掛けを行っていく」
■『人間尊重』と『環境との共生』のまちづくり
つまり、本稿の冒頭で書いた、臼井市長の再開発計画に関する発言である「総合基本計画をはじめ、各分野別計画において示す本市のまちづくりについて『十分な理解』を求める」というのは、この再開発対象エリアが、正に総合基本計画の「文化芸術、スポーツの振興を図るまち」「環境負荷を低減し、水と緑の自然環境を守るまち」「快適で利便性に富んだまち」を含む各分野で重視されている場所に相当していることがみてとれる。各分野の計画が達成されてこそ、昭島市第5次総合基本計画で掲げる『人間尊重』と『環境との共生』のまちづくりの理念の実現に近づくのだろう。
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