白いしるし/西 加奈子
ひどく簡潔に表すと、主人公の夏目が痛々しいまでに真島という男に恋をするという話だ。
どこまでも真っ直ぐで素直な作品だったので、自分の生き方が恥ずかしくなるような、隠れてしまいたいような気持ちにもなってしまった。
中でもこの文章に共感すると共に、なぜ今まで私は当たり前にこのような生き方をしてきてその事に気づかなかったんだと恥じた。
自分が心の中で本当に思っていることを口に出したり、素直にこれがいいと思ったものを手にしたりと、相手や環境に左右されずに石のようにいられたのはどれくらい僅かな時間だろう。
いつの間にか私は水みたいに周りに合わせ、社会の求める普通に染まろうとして、流行り廃りに気を取られていた。
夏目が惹かれる真島という男はどこまでも真島であり、その素直さは時に恐ろしさともなって夏目を襲う。しかしそれを凌駕する恋という呪いに似たようなものは夏目を捉えてやまない。
私も夏目も気づいた時には真島という男から目を離せなくなっていた。
きっと真島は生きづらいんだろうなと夏目は言っていたが本当にそうだと思う。
この作品は素直に生きることの美しさを描き、それと同時にそのむつかしさも見事に描いていた。
だからこそただの綺麗事としてではなく素直になること、そのことの意味というものをハッキリと訴えかけてきてそれに応えずにはいられなくさせるんだと思う。
素直に生きること。それは単純だがどこまでも絶望的に完璧などないことだが、果敢に挑まなければならない。そう決意した。