見出し画像

【連載】大阿久佳乃が翻訳するアメリカ現代詩 #5 (フランク・オハラ『ランチ・ポエムズ』)


アメリカ文学エッセイ集『じたばたするもの』(サウダージ・ブックス)を刊行した文筆家の大阿久佳乃さん。同書で取り上げた詩人たちの作品を、大阿久さんの翻訳でお届けします。



フランク・オハラ
大阿久佳乃 訳

僕は武器庫がその赤褐色のレンガを梳いているのを見た
空にはきらきら光るミルクのレール。
白鳥はどこに行ってしまったのだろう、あの後ろ足が不自由なやつは?

  今階段を登っていって
  僕は新たな我が家に入る 灰色の
  ラジエーターと羊毛でいっぱいになった
  ガラスの灰皿でいっぱいになった。

冬に備えて バジルの葉とウクライナの標語の 刺繡風模様つき
サモワールを手に入れないと
遠くの羽の音へ、いたましいほど風に逆らって、

  少し青い
  夏の空気が戻ってくる
  怪物の蒸気攻撃の中で
  蒸気がくすくす笑うにつれて

僕はそこかしこで幸福になるだろう、茶(tea)と
涙(tears)でいっぱいになって。イタリアに
行けるとは思わない、でも少なくともひどいツンドラはある。

  僕の新しい家は木や
  根っこ、及び同類のものでいっぱいになるだろう、
  僕がタートルネック
  セーターを着て歩き、自転車を修理する間

柵が震えるのを見た
異常なまでに純粋になった僕の顔の雪の中で
かつて僕はある男を手に入れるため そいつの自分自身に関する考えをぶち壊した。

  もしあの時サモワールを持っていたなら
  あいつに茶を淹れてやっただろう
  そしてヒヤシンスがポットから
  育つにつれ あいつは僕を愛するだろう

僕の 泥でいっぱいになったティーポットカバーのチャーミングな部屋
だから僕は旅に出なくちゃならない、葉っぱを集めるために。
ああ僕の巨大なピアノ、お前は外にいるべきじゃない

  寒いけど お前は
  火と木でできているけれど!
  僕はお前の蓋を持ち上げ、山々は
  戻る、僕は大丈夫だ。

星々は座席に落とされたヘアネット
のように瞬き 今それは僕の戯曲が死にゆく声で
反響する劇場の裏通りに横たわっている。

  僕は本当に木彫り師で
  僕の言葉は愛
  その部屋でわがままに
  行進し、居座り続ける。

(1954)


訳者コメント

こういうチャーミングな詩を読むとオハラのこと改めて好きだなあと思う。一行目に出てくるパーク・アベニュー・アーモリー、画像検索すると確かにこう……絶妙に櫛で髪の毛を撫でつけてそうな感じなんですよね。

大阿久佳乃(おおあく・よしの)

2000年、三重県鈴鹿市生まれ。文筆家。2017年より詩に関するフリーペーパー『詩ぃちゃん』(不定期)を発行。著書に『のどがかわいた』(岬書店)『じたばたするもの』(サウダージ・ブックス)、月刊『パンの耳』1〜10号、『パイナップル・シューズ』1号など。

https://saudadebooks.thebase.in/items/71651397


いいなと思ったら応援しよう!