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【連載】大阿久佳乃が翻訳するアメリカ現代詩 #7 (フランク・オハラ『ランチ・ポエムズ』)
2023年にアメリカ文学エッセイ集『じたばたするもの』(サウダージ・ブックス)を刊行した文筆家の大阿久佳乃さん。同書で取り上げた詩人たちの作品を、大阿久さんの翻訳でお届けします。
ケンブリッジ
フランク・オハラ
大阿久佳乃 訳
まだ雨が降っていて 黄緑のコットンフルーツが
窓を囲んで馬鹿みたいに見える、鳶色の葉をたった3枚残しただけの
冬の木々の上でへたばって。保温プレートはちゃんと熱くなってくれて
それが地上で唯一の熱、そしてインスタントコーヒー。僕は
あったかいコーデュロイパンツと重たい栗色のセーターを着て
古い栗色のバスローブで身を覆う。ちょうどマールブルク(1)にいる
パステルナーク(2)みたいに(あいつらはイタリアやフランスのほうが寒いって言うけど、ドイツは少なくともこれくらい寒いと僕は思う)、で、
主の啓示がないから、僕は凍死するかも
白い雨の中に出て行ける前に。前の晩に窓を
閉めておくこともできただろって? でもそこが
健康のやってくるところなんだよ! ウラルからの神の息吹が僕を炎の中に引き込む
忘れられたタバコみたいに。燃えよ! これはつまらないことなんかじゃない、
詩的であり、弱々しくない、偉大なる存命のロシアの詩人が計り知れない金額でスポンサーについてるから。
通りの向かいに建設中の家、
雨の中ほったらかしにされて。内緒で、工事を進めてやろう。
(1956)
訳注
(1)パステルナーク(訳注(2)を参照)はマールブルク大学に進学。また、そこで名家の娘イーダ・ヴィソトスカヤに振られた経験を「マールブルク」というタイトルの詩に残している。
(2)Pasternak(Boris Leonidovich Pasternak、ボリス・レオニードヴィチ・パステルナーク)は、オハラが尊敬していたロシアの詩人(1890~1960)。「偉大なる存命のロシアの詩人」もパステルナークのことか。オハラは、1960年に「Variations on Pasternak's "Mein Liebchen, Was Willst Du Noch Mehr?"」と題した詩を書いている。
出典
Frank O'Hara, "Cambridge", in Lunch Poems, City Lights Books, 1964
訳者コメント
コットンフルーツは南の国の食べ物。その言葉以外はあきらかに寒い地域の冬の光景で、そのアンバランスさが「馬鹿みたい」で、最後の建設中の家の工事を内緒で進めてやる、という表明に不思議に釣り合っている。パステルナークはオハラが影響を受けた詩人のひとり。
大阿久佳乃(おおあく・よしの)
2000年、三重県鈴鹿市生まれ。文筆家。2017年より詩に関するフリーペーパー『詩ぃちゃん』(不定期)を発行。著書に『のどがかわいた』(岬書店)『じたばたするもの』(サウダージ・ブックス)、月刊『パンの耳』1〜10号、『パイナップル・シューズ』1号など。
https://saudadebooks.thebase.in/items/71651397