【連載】大阿久佳乃が翻訳するアメリカ現代詩 #2 (フランク・オハラ『ランチ・ポエムズ』)
2023年にアメリカ文学エッセイ集『じたばたするもの』(サウダージ・ブックス)を刊行した文筆家の大阿久佳乃さん。同書で取り上げた詩人たちの作品を、大阿久さんの翻訳でお届けします。
ラフマニノフの誕生日に
フランク・オハラ
大阿久佳乃 訳
急げ! 俺の気が狂う前の
最後の詩だ。ああラフマニノフ!
マサチューセッツ・オンセット(1)。ホルンを吹いて
いるのはフィグ・ニュートン(2)? 雷鳴のような地獄の窓、おまえの管は
粉々に砕けてしまわないのか? ああ俺のオレンジの宮殿、
中古品屋、ホチキスの針、アンバー、玄武岩
俺はまた子供だ 俺がほんとうに
惨めだった頃、手探りのピチカート。ポケットに
ラインストーン、ヨーヨー、カーペンター・ペンシル(3)、
アメジスト、注射器、キャンペーン・ボタン(4)、
部屋は煙でいっぱいか? スープ
にうんこして、燃やしちまえ。それで戻ってきた。
お前はもう精神的に素面(しらふ)ではいられない。
(1953)
訳者コメント
フランク・オハラは『ラフマニノフの誕生日』と題した詩をたくさん書いており、そのうちのひとつ。リズム感が耳に心地よい。ポケットにいろんなものが入りすぎている。最後の行はなかなか word of wisdom 感ある。
大阿久佳乃(おおあく・よしの)
2000年、三重県鈴鹿市生まれ。文筆家。2017年より詩に関するフリーペーパー『詩ぃちゃん』(不定期)を発行。著書に『のどがかわいた』(岬書店)『じたばたするもの』(サウダージ・ブックス)、月刊『パンの耳』1〜10号、『パイナップル・シューズ』1号など。